漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

語り得ないもの

■自分がどうすればいいのかはっきり分からない。今は好きなときに音楽を聴いたり、ゲームをしたり、ビデオを観たりしている。でも、それでいいか分からない。そうすることに根拠がない。もし学校に行ってたら、同じことをしてても、こんな気持ちにならないんじゃないかとも思う。さりとて勉強するのも無理な気がする。とにかく、いろんな場面で、どう行動したらいいのか分からない。こうすると自信を持って答えられない。行動の根拠は何だろう。

■訪問先の男の子の話。身の処し方についての経験不足やら、するべきことをしていない焦りやら、自信のなさやらいろんなものが混じっているが、あっち飛びこっち飛びの話をまとめるに、彼が真に言いたかったことはそれらではない。というのも、この後が次のように続くからだ。

■重力って何だろう。こういうことと、重力とは何かを考えることは似ている気がする。なぜ重力があるのか。宇宙の始まりを考えることにも似ている。ビッグバンが最初と言うけど、そもそも宇宙が"始まる"ってどういうことなのか。先に述べたようなことを考えると、いつも重力や宇宙のことを思い出す。

■重力の理屈が知りたいのか、と質問したら違うとの答が返ってきた。重力があるという、そのこと自体についての疑問だという。

■重力とは引力と遠心力の合力であり、引力は物体同士が引き合う力をいう。引力は物体の質量が大きいほど強くなり、故にリンゴは地球に引っ張られて地面にぶつかる―物理に明るい人なら、もっと詳しく語るだろう。だが、どんな説明も、重力という現象を解説はするが、そもそもなぜ重力なんてものがあるのか、という問いにはついに答えない。ビッグバンから宇宙が始まるという仮説は、「宇宙の始まり」そのものの説明足り得ない。自分の行動の根拠を考えることはそれに似ている、と彼は言うのだ。行動の根拠、意味、そんなものはどこまでも問える。問えて、ついに答を得ない。そこで重力に思い至る辺り、なかなかセンスがいい。

■今はまだ「どうすればいいのか分からない」なんて言ってるが、もう少し考えれば、世界はそもそも語り得ないものの集合で出来ていることがわかるだろう。そこからの話をするのが楽しみだ。その日が早く来ないかな。


■余談。それにしても、「音楽を聴いたり、ゲームをしたり、ビデオを観たりしている。でも、それでいいか分からない」とは、岡村靖幸のようで笑った。「カルアミルク」だよ、それじゃ。

♪ここ最近の僕だったらだいたい午前8時か9時まで遊んでる
 ファミコンやって、ディスコに行って
 知らない女の子とレンタルのビデオ見てる
 こんなんでいいのか解らないけれど
 どんなものでも君にかないやしない (「カルアミルク」岡村靖幸

あとは好きな子がいるかどうか、だな。人間の場合、「他人」という別枠からのアプローチが存在するところが、重力や宇宙の始まりに比べて融通の利くところだね。もっともその分、面倒でもあるのだが。