漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

短絡学力論

■今度は国際教育動向調査で理科と数学の点が下がったと騒ぎになっている。特に、読売新聞では一面トップ記事、二面に解説、社会面では「学力低下日本の子どもたちニート予備軍?」と「?」つきのスポーツ新聞ばりの見出しを掲げ、あおりにあおっている。文科省も「ゆとり教育」転換の検討を始めたらしい。

■まあ、現行の「ゆとり教育」なんて、「ゆとり」の名の下学習時間を削って、結果的に余計ゆとりを奪っただけだから、見直しが入るのは構わない。しかし、例えば上述の読売新聞の記事なんてこう(↓)だ。

国際教育到達度評価学会(IEA)が発表した理数系学力の国際調査では、日本の子どもたちが宿題をする時間は参加国中で「最短」だが、テレビやビデオを見る時間は「最長」という実態も浮かんだ。
算数・数学や理科の勉強を「楽しい」と感じる子の割合も国際的に低水準で、専門家からは、若者の無業者を指す「ニート(NEET)」の予備軍が子どもたちにも広がっているとの指摘も出ている。
(中略)
また、「希望の職に就くために数学で良い成績を取る」と思う中2は、シンガポールや香港が70%台だったのに対し、日本は47%で、将来に生かすために勉強するという意識が薄いという結果が出た。
(読売新聞 12/15朝刊)

数学が将来に結びついていないのはどう考えても世の中の仕組みが原因で、そんなことまで子供に負わせるなよ、と思う。それで、数学、理科が楽しくなければニート予備軍にされるんじゃ、バカバカしくってやる気も出ないだろう。理科や数学に代わる「将来に結びつく」能力が伸びてるのかもしれないし、宿題をする時間が最短なのだって、とても頭が良くて、あっという間に終わらせてしまうからなのかもよ。

産経新聞の記事には、「日本は同調査で七〇年に中学理科、小学理科が一位、八一年に中学数学が一位になるなど最上位だったが、以降は低下傾向にあり、今回も順位の下落に歯止めがかからなかった」とある。それなら、学力低下はここ20〜30年来のもので、今の子供たちが特別ダメなわけでもなさそうだ。中山文科相の「要するに勉強しなくなったんじゃないですか」もそうだが、とにかく短絡なのだ。

OECDの学力調査でトップをとったフィンランドは今回不参加だったが、その教育制度には定評がある。例えば「フィンランドの教育」で検索してみると、いろいろ面白いことがわかる。

■「大学まで教育は無償」「職業教育、成人教育の充実」辺りがまず目を引く。カリキュラムの策定や、授業の進め方には学校や教師の裁量が大きい。「学校に行くのは7歳から」「学校で過ごす時間は少ない」など、「ゆとり教育」批判を覆すようなものもある。

■別にフィンランドの教育制度が万能だと言う気はない(頭の中でYO-KINGの『審美銃』もなってるし)。ただ、「要するに勉強しなくなったんじゃないですか」式の杜撰な思考からは思いつかない選択肢はあるはずだ。と思ったら文部科学省でも視察に行ってるのね。じゃあ、後は理解力と応用力の問題だな。

■文句ばかりでもつまらない。高校就学費も生活保護の給付対象にせよ、という報告書案を厚労省の専門委員会がまとめたという。学費のことで高校進学を諦めざるを得なかった事例をよく聞くだけに、これには期待したい。


※本日の脳内BGM:審美銃(YO-KING