漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

情報化社会と思春期の子どもたち

■ということで、講演会に行ってきました。副題が「少年少女凶悪事件の再発防止を願って」。昨今の情勢からも大入り満員かと思ったが、会場の入りは5、6割といったところだった。

■講師は新潟青陵大学碓井真史氏。ちょっと春風亭小朝に似ている。話も落語的で、いきなり紋別赴任時代の思い出や、立ち会い出産は父親の自覚を促す心理的効果があるとか、とめどなく広がってどうなることかと思ったが、知らないうちにうまく着地していた。「1000年」という単位が普通に口をついて出たり、「愛」という言葉をよく使っていたことから、多分クリスチャンなのだと思う。

■内容は全体に氏のサイト「心理学総合案内こころの散歩道」に書かれているのとそう変わりなかったので、詳しくはそちらを見てもらうとして、面白いと思ったことを。

■「現代の若者は傷つくことを極端に恐れている。だから深い人間関係が作れない。しかし一方、人との温かいつながりも求めている。そういう若者の心に、親密性と匿名性がいっぺんに手に入るネットがぴったりとあてはまった」。ケータイやネットにはまる若者について、碓井氏はそう分析する。そして、まれに急激に親密度を増した人たちが初めて会って一緒に自殺したりする、と。かねてから、世の中が「親密な人間関係」に変に重きを置くのをいぶかしく思っていた。「なんでも話せる友達」「かけがえのない関係」。そして、そういう言葉ばかりを知っていて、自分にはそんな人間関係がないと悩む子供たちによく会った。俺自身にそんな友達がいるかどうかはよくわからないが、人間関係を築くのにある種の段取りやしきたりがあることは知っている。「友達のあり方」ばかり教えないで、友達になるまでの段取りを教えろよ、と思っていたら、碓井氏もこのように言っていた。

世の中のスピードはぐんぐん上がっているが、昔ながらのことをしなければならないこともあるんです。例えば、人間関係もそうです。

以前と同じだけの時間と手間をかけなくちゃしょうがないことというのは確かにあるのだと思う。

■その他、「学校は失敗を許される場所だった」「子供に期待し、成功を願うのは構わない。しかし、一方で“仮令そうじゃなくとも…”という感覚も必要だ」「大人のやることは自分の利益を考えてのことなので厳罰化も効果があるが、子供の犯罪はサインなので厳罰化の効果はない」「ネットなどの規制という話を持ち出すと、すぐ“子供の行動を制限しろ”という話が持ちあがるので、しないことにしている」「ゲーム脳、などというが、あれは単にいろんな遊びをしなさいということ」などなど。

■休憩を挟んで質疑応答に移った。演題にある「情報化社会」とは何かということについて、具体的な説明はなかったのだが、俺は俺で「正しい答があると思い込んでいる人の多い社会」が「情報化社会」ということだと漠然と思っていて、そういう目で見ているとなかなか面白かったが、それは次回以降に。ムッと来た参加者の発言を2つ紹介して今日は終わり。

■ひとつは、どこだかの大学で情報工学を専攻しているとかいう男子学生。専門で学ぶうち、彼はインターネットというのは心底子供に害だと思ったそうである。彼の発言↓(要旨)。

男性の性衝動はとても強いものがある。生理痛が男性にわからないように、この衝動は女性にはわからない。それはどんな倫理でも制止できない。そういう衝動を喚起するものがネットには溢れている。性について語るのはタブーだという風潮が日本にはあるが、それではいけないと思い、せっかくこのような機会があるのだから、ご意見を伺いたく発言した。

■君ね、その話を身近な男友達としてるの? してないでしょ? してないはずだ。してたらこんなとこで質問しないもの。自分の友達に聞かないのは、性の話がタブーだと思ってるのが君自身だから。でも、自分の中には衝動と呼べるようなものが確かにあって、その位置付けが自分じゃ出来ないから、誰かに片づけて欲しくて、講演会までやってきてそんなおかしなこと聞くんです。とにかく、いっぺん男友達と話してこい。性衝動を強く持ってるヤツもいれば、そんなに持ってないヤツだっている。その処理の仕方だって様々だ。要するに人それぞれだということがわかるはず。そういうことをさぼって、こんなところでぶちまけないのね。

■もうひとつは50代くらいの女性の発言↓(要旨)

40代50代の男性が10代の少女と性的な関係を持つなんていうことは昔は考えられなかった。それは出会い系サイトなどのせいで、インターネットは現代の社会の諸悪の根源と言っていいと思う。また、今は仮想現実の中で買物をしたり、遊んだり、結婚まで出来たりする。そういうものに浸かって、仮想現実と現実の区別がつかない人が増えていることは問題だ。

■あのね、むかし女郎屋に売られた子って何歳だったの? 売春ツアーの話は聞いたことない? そんなものは昔からあるの。まあ、ネットやケータイの普及でより簡単に相手を見つけられるようになった、というのはあるかもしれない。でもね、それは中間業者を排除したという、いわば流通の問題なのよ。勝手に昨今の風潮にしないで欲しいな。それと、仮想現実が云々の話。「仮想現実で結婚もできる」がどういうことなのかよくわかんないけどさ、そもそもこの話どこから聞いたの? 新聞やテレビで見たんじゃないの? で、それって“現実”なの? 実際にあっちとこっちとこんがらかってワケわかんなくなってる人が身近にいるってんじゃない限り、メディアで見聞きしたことをそのまま現実だと思い込んでるあなたが、「仮想現実と現実の区別がつかない人」なんじゃないの。

■あまりのことに上のような反論をしようと思ったが、その前に終了時間がきてしまったのでした。碓井氏はちゃんと相手を立てつつ回答してて、さすがだなと思った。