漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

事実と違うのでは

■昨日の夜から今朝にかけて札幌は大雪との予報だったが、朝、カーテンを開けると昨日とおなじ景色が広がっていた。ツルツルの路面を雪で隠してほしかったんだけどな。今日もおっかなびっくり車を運転する。

■カタリバの今村さんがよくわからない記事を書いている(正確には今村さんの著書の抜粋)。

diamond.jp

これまで通っていた学校で不登校になり、民間のフリースクールへ移った場合、気になるのは「このまま元の学校に戻らずにフリースクールを卒業して、義務教育を修了したことになるのだろうか?」ということです

今村さんはこう問うが、そもそも学校から民間のフリースクールへは移籍できない。この問い自体に意味がない。

■卒業は校長判断なので、不登校を理由に原級留置になる可能性はある。だが、日本の学校は年齢主義なので、本人の希望などよほどのことがなければ(以前の訪問先で、ちゃんと勉強してこなかったからと本人が望んで留年したケースがあった)12歳の3月で小学校を、15歳の3月で中学校を卒業する。つまり「義務教育を受けた」ことになる。

フリースクールが学校と連絡を取り合っているとか、フリースクールの利用が出席認定されているとかは卒業の要件に一切関係ない。記事ではフリースクール利用の証明書を学校に提出し出席認定された子の例を挙げ、「この場合はフリースクールを卒業すると、Hちゃんは『義務教育を修了した』と見なされます」と書いているが、単に年齢が来たので学校を卒業しただけだ。フリースクールは無関係。もっといえば、どのフリースクールも6・3制で「卒業」するわけではない。そもそもが学校制度と別建てだから「フリー」スクールなのではないか。

■インターナショナルスクールの利用が「保護者の就学義務不履行」とされた例はある。2021年、名古屋市の区役所が原籍校へ通わせるよう督促状を送ったとニュースになった。インターナショナルスクールからの報告書をもって出席扱いとし、就学義務を果たしたとする自治体もある。だが、これらは保護者の義務の話であって卒業云々ではない。

■形式卒業ではない、実際に義務教育課程を修めた(身につけた)かどうかが問題なのだとしたら、確かにフリースクールに通っても修了にはならないケースはある。だが、それは出席認定もおなじだ。修めたかどうかはテストなどで確かめねばわからない。出席認定されたからフリースクールを卒業すれば義務教育を修了した、とはならない。

■今村さんがこれらのことを知らないわけはない。なぜこんな間違いだらけの記事を出したのか。

昨今は、フリースクールを学校として扱えないのか、という議論も始まっています

記事の下段にはこんな一文もあり、フリースクールを「学校化」する下地づくりなのか。経産省のワーキンググループでオルタナティブスクールの公的認証を主張していた経緯もある。公的な「学校外学校」の制度をつくり自分たちがそこに収まる算段かな。

■カタリバはほかに独自のアンケート調査をもとにこんな記事を出していた。

www3.nhk.or.jp

一か月で6,000人からアンケートをあつめたのはすごいと思うが、6,000人中785人が「一週間以上連続して欠席した」「保健室や校長室には行くが教室には行かない」「教室で過ごすが、心の中では毎日学校に行きたくないと思っている」などと答えたのをもって全国にはこのような「不登校傾向」の中学生が41万人いるとぶち上げるのはやり過ぎじゃないか。

■おなじ方法で2018年に日本財団がアンケートを取り、「隠れ不登校33万人」とセンセーショナルに打ち出した。その後、日本財団は「♯ミライの学び」というキャンペーンを張り、「学校外の学び」を後押しした。メタバース登校を進めるカタリバなので、おそらく今回もおなじ流れになるだろう。今村さんは記事中で「不登校になる前の段階で支援」を主張している。これは文科省の「早期発見・早期対応」と軌を一にする。支援先が学校内になるか学校外になるかの違いだけだ。

■そもそも「心の中では毎日学校に行きたくないと思っている」は「不登校傾向」なのか。「休みそう」だけで「支援」の対象にされてしまうんじゃ、うっかり内心の吐露もできない。不登校をめぐる状況はどんどん混迷を深めている。