漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

むかしの方がよかったことに

■5月16日、「超党派フリースクール議員連盟・夜間中学等義務教育拡張議員連盟」の合同総会が開かれ、教育機会確保法見直しに向け馳座長の「試案」として「個別学習計画」作成が提案された。別資料で、フリースクール全国ネットワーク代表理事として奥地さんも個別学習計画を要望している。だが、この件について事前に加盟団体への相談はなかった。漂流教室は個別学習計画の策定を望んでいない。勝手にそんな要望を出されては困ると6月23日の全国ネット総会で談判することにした。で、それなら一緒に保護者の意見も持っていこうと、教育機会確保法について考えるあつまりを持った。みっつの親の会を含む17名が参加した。


(図:その後の話、この先の話。教育機会確保法とか、わたしたちのこととか。より)

■馳試案は、保護者と児童生徒が「個別学習計画」を作成し、教育委員会か国の認めた機関が認定すれば保護者の就学義務を履行したとみなすというものだ。個別学習計画は学校教育法第21条の10項目に沿ったものとする。

学校教育法第二十一条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする

  1. 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと
  2. 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと
  3. 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと
  4. 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと
  5. 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと
  6. 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと
  7. 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと
  8. 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること
  9. 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと
  10. 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと

ICTの利用、通信制・単位制の義務教育段階での活用など教育の市場化を見据えていると思われるが、導入は「不登校支援」になるのだろう。ところで、これでなにがよくなるのか。現在、子供が学校に行かないことで保護者が就学義務不履行を問われることはない。文科省によれば、不登校は子供を出席させないことの「正当な事由」とされている。だが、個別学習計画作成、提出で就学義務を履行したと"みなす"ということは、出さなければ義務履行と"みなさない”ということになるのではないか。

子供が学校へ行かない

  • 個別学習計画を出す→就学義務履行
  • 個別学習計画を出さない→就学義務不履行

出すことにしたって、上記10項目を満たすような計画をつくれるのか。ちなみに就学義務不履行は10万円以下の罰金となる。

■個別学習計画を進める人は、個別学習計画は出さなくてかまわない、その場合はこれまでの不登校とおなじ扱いになると言うだろう。本当にそうか。ただ学校を休むことが許されるなら、そもそも不登校に悩む親子などいないのじゃないか。すでにシュタイナー学校など、どこかのオルタナティブスクールに通っているが、正規の学校と認められないので不登校扱いになっている子供。または、学校での勉強のほかに学びたいことがあって、自分でどんどん進めている子供。そのようなケースには受け入れられるかもしれない(あの10項目に縛られるならそれもあやしいが)。だが、それは「不登校」を対象とした法律ですることではない。

■あやしいといえば、「学校以外の学びの場を選べる」という言葉も少々あやしくて、はたから見れば選択肢が増えたように思えても、当事者にとってはAがダメならB、BがダメならCと、どんどん重荷が増えていくだけということもある。先日の札幌学院大学での講義でもそんな話をした。(それ以前に、学校教育法に基づいてるんだから『学校以外の学びの場』じゃなく『校舎の外にも学校を広げる』だと思うけども)

■すでに成人した子のいる参加者は「むかしに不登校しててよかったっていうことになるかもね」と冗談まじりに話していたが、もしそうなったら、道をつけたのはフリースクールということになってしまう。そんなの真っ平ごめんなのだが、ほかのフリースクールはどう考えているのか。めっきり声が聞こえなくなってしまった。議論百出の総会を望む。(6/17夕)