漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

フリースクール白書2022

フリースクール全国ネットワークの出した『フリースクール白書2022』が届いた。「想像ではなく『数字』で見る」が副題で、フリースクール関係者のみならず行政や企業が見ても参考になるものを目指したそうだ。フリースクール代表者、スタッフ、子供、保護者に対し延べ178の質問をし、まとめた。このような本はこれまでない。

■ところが肝心のデータがめっぽう見づらい。たとえばダイジェスト報告にフリースクールの月会費のグラフがある。

  • 1万円以下:27.8%
  • 2万円以下:17.8%
  • 3万円以下:23.3%
  • 4万円以下:18.9%
  • 4万1円以上:12.2%

2015年の文科省調査では月会費の平均は3万3000円だった。そのグラフと比べると会費1万円以下の割合が多く(文科省15.2%、白書27.8%)、3万円以上の割合は少ない(文科省46.3%、白書31.1%)。母数が違うので単純比較はできないが、感覚的にはずいぶん安い。それとも7年のあいだに会費設定を低くしたフリースクールが増えたのか。

■元データに当たろうと巻末の単純集計を見ると、そもそも月会費の項目がない。財政・経営に関する項目で「会費を納入している人について、人数と会費額を教えてください」との質問があり、ここの「子ども会員・利用者」が該当するのじゃないかと思うのだが、会費額は「最小値=0円、最大値=75,000円」と書かれているだけで用をなさない。グラフに分けたからにはもっと細かいデータがあるはずで、それを載せてもらいたい。

■もうひとつ、保護者への質問項目に費用を聞いたものがあり、そこで12か月分の会費がわかる。最小値が0円、最大値が120万円(単純に12で割ると月10万円で上の最大値75,000円と合わないが、片方しか出てない団体はあるだろう)。最頻値が240,000円なので、月額2万がいまのフリースクールの相場なのかもしれない。

■しかし、そんな額で運営できるだろうか。会費を納入している子ども会員の人数を載せた表がある。

  • 0人:3.1%
  • 5人以下:26.1%
  • 6~10人:15.6%
  • 11~20人:29.2%
  • 21~50人:24.0%
  • 51人以上:2.1%

月額2万円で利用者20人なら月40万。スタッフ給与で一番多いのが月に15万~20万円なので、計算上はスタッフ2名に家賃でギリギリやっていけないこともない。スタッフに無理をかけて成り立つフリースクールの図は、スタッフの困りごとの一位が「団体の財政」、二位が「待遇、給与について」なことからもわかる。

■と、いろいろ推測はできるのだが、たとえば開所日数と月会費のクロス、利用者数と月会費のクロス集計があるともうすこし実態が見えたと思う。

■利用者数についてはほかにもよくわからない部分がある。登録人数を調査した項目があって、中学生男子が「最小値=0人、最大値=700人」、中学生女子が「最小値=0人、最大値=400人」ととんでもない数字が出ている。一日平均の利用者数を聞いた項目では中学生男子が「最小値=1人、最大値=200人」、中学生女子が「最小値=1人、最大値=100人」となっている。登録だけして来ない子がいるのはわかるが、前掲の子ども会員の人数との乖離はどう考えたらいいだろう。会費不要のフリースクールなのか。そもそも中学生男子が700人登録しているフリースクールとは?

■考えられるのは通信制高校の中等部を各地の拠点ごとにわけず、一括で計上したケースだ。これなら登録数百名もわかる。あるいはオンライン型のフリースクール。これらの台頭は運営形態の変化を考察した章でも述べられている(この章は団体の意思決定への子供の参加やスタッフの待遇の違いなどにも触れていておもしろい)。

■などなど、いくつか興味を引くデータはあるのだが、とにかく見づらい、わかりづらい。特に最小値、最大値であらわすのはやめてほしい。たとえば、進路の項目で、在籍校に戻った人数「最小値=0人、最大値=300人」からなにをどう読み取ればいいのか。それとも俺が慣れていないだけ?

■あつまったデータが予想以上にばらばらだったのかもしれない。NPOから企業から福祉法人、学校法人にいたるまでさまざまな団体から回答を得たのがこの本の売りになっているが、それが徒になってまとめきれなかった可能性はある。

■だからこそ自由記述の内容を知りたかったな。あと誤字脱字が多い。校正しましょう。2003年の『フリースクール白書』も持っていたはずなのに見当たらない。どこにやったっけ。