漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

不登校児童生徒支援連絡協議会

■月曜の日誌ではあるが、水曜日に行われた北海道の不登校児童生徒支援連絡協議会に参加した(ZOOM)のでその報告をしておこうと思う。なお、この会は1/18,20両日同内容で行われるもので、山田は18日文について書いておく。

■協議会のプログラムは、

  1. 道教委より解説「生徒指導提要における不登校児童生徒への支援について」
  2. 実践発表「不登校児童生徒に対する学習支援や教育相談の取り組みについて(釧路市教育委員会、白老東高校)」
  3. グループ協議「不登校児童生徒に対する効果的な支援の在り方や各機関との連携について

の三点だった。参加に当たって、実践報告発表後の質疑応答への質問を募集していたので、山田からは以下の質問を出しておいた。

・新たな不登校を生まない魅力ある学校づくり
学校づくりは教師のみならず家庭とも協力して行うものであることに加え家庭教育の重要性が説かれる昨今、不登校児童生徒への支援の際、児童生徒や保護者の声をどう集約し取り入れているか(背景として、学校基本調査における不登校の理由・支援内容と児童生徒や保護者の意見に食い違いが見られることもある)

不登校傾向にある児童生徒への支援
確実に休んだ方がいい身体・精神状況だが登校してきていると判断される生徒がいた場合、どのような支援を行っているか

不登校になり始めた児童生徒への支援
休養の必要性については教育機会確保法でも謳われているところであるが、支援を開始する際に休養期間についてのアセスメントはどのように行われているか

■最初の解説だが、これは昨年末に改訂版が出た生徒指導提要の中から不登校についてを取り上げたものだった。提要は以下のページからダウンロード可能。https://www.mext.go.jp/content/20221206-mxt_jidou02-000024699-001.pdf この中の第10章に不登校についての指導なのだが、今回の北海道の解説では文中に出てくる「不登校対応の重層的支援構造」という図に文中では出てこない「プロアクティブ型対応」「リアクティブ型対応」という言葉を更に加えて話をしていた。

■一体これは何かと調べてみると次のようなページや研究が見つかった。
https://cotree.jp/columns/693
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K13877
要は、プロアクティブ=未然防止/リアクティブ=早期対応に相当するものとして話をしている。カウンセリングの場や研究上はもっと違う意味が入っていると思われるが、結局道職員が解説しているものはその言い換えで済むものだと感じた。そして、この2つのうちプロアクティブ型の対応を推している話をしていた。方針としては、児童生徒が主体的に課題への対応を行えるような積極的な生徒指導を充実させる、という話しをしていた。これは生徒が自分でSOSを出せるようにしていくことが目標になるらしい。例えば、自殺予防教育用の「心と体のチェックリスト」https://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/fs/7/4/8/4/7/0/2/_/tebiki.pdf
で生徒の状況を把握してフィードバックするなどを考えているようだ。

■生徒指導には「チーム学校」としての組織的対応が必要だが、熱心な先生が多いので一人で抱え込んでしまわないようにすることが大事だという話しもあった。思うに、これは逆で、一人でなんとかする教師が熱心で力があると評価されるので、組織的対応は後回しになるのではなかろうか。「自分では無理です、助けてください」とすぐに言う教師はどのような評価を得るか、現役教師に聞いてみたい。

■その次に行われた実践発表は、多分一昨年の「不登校に関する調査研究協力者会議」の実践発表でやっていたことを北海道でもやってみました的なものだった。
https://hyouryu.hatenablog.jp/entry/2021/11/25/000000
https://hyouryu.hatenablog.jp/entry/2021/12/10/100000
釧路のものは京都でやっているハンドブックにあたるリーフレットを配布し研修している話しであった。全市で不登校に対する共通理解を広めるそうだ。さて、一体その共通理解の中身とは何か。それはよくわからなかった。白老東高校は鳥取でやっているような感じでコミュニケーション能力を高めるように生徒と話す様々な機会を増やす取り組みだった。その取組に前述の自殺予防教育のチェックリストも絡み「プロアクティブ型対応」をしているという話しらしい。不登校児童生徒への支援は、そうなりそうな児童生徒から「休みそうです」と言ってくるように指導することになるようだ。それ、支援ですか?ちなみに、質疑応答では前もって出した質問は取り上げられることは無かった。

■その後は参加者を4、5人ずつにグループ分けしての討議だった。自分のグループは教育局や教育委員会の職員で現場の教職員はいなかった。そして、一人は去年退職した校長、もう一人は部署異動で初めての仕事という人であり、果たしてどんな話しになるのかどきどきであった。

■退職校長は適応指導教室に関わっているということで、現役時と比べて不登校児童生徒への関わり方が手厚くできることを良いことと語っていた。学校にいる間よりも個別の接点が出来ているのが嬉しいようだ。ただ、これは熱心な先生が一人で抱え込む問題の萌芽が潜んでいると思った。自分ひとりが熱心に関われるケースがあると嬉しさややりがいを感じるのだろう。それは誰かと連携することのハードルになっているだろう。

■初めての教育委員会だという人は、郡部での不登校に対する登校圧力について語っていた。これは大きな問題だとは思うが、一方で後志の学習支援を通じて共和町教育委員会の人と行った不登校児童への支援では、学校に行くということに留まらない関わり方を学校の先生と協力して行うことも出来た。釧路の実践発表でやっている「不登校に対する共通理解」の中身が共和町のような対応が可能な理解か、はたまた学校復帰を目指すものになるか、そここそがこの協議会で共有すべきものだと思う。

■グループ討議では生徒指導提要についての感想を話し合った。他の三人は「使えると思った」程度だったが、自分は通信にまとめた中身を話した。簡単にいえば、教育機会確保法を根本に据えて「学校復帰」という文言を使わずに学校復帰を目指そうとする、いわばステルス学校復帰が可能になっているということだ。今回推されているプロアクティブ型対応や児童生徒からSOSを出すようにするという対応は、早期発見・早期対応・未然防止を巧妙に言い換えたに過ぎない。一方、休養の必要性が法律に書かれていても不登校でいる時にどのようにどれくらい休むのかなどをアセスメントすることについては語られることが無い。そして最終目標はお決まりの社会的自立である。社会的自立を可能にするためには、「学校復帰」という言葉は出さないが学校に来れるなら来る方がいいし、ダメならそれに相当する関係機関と連携して関わる。果たしてこれで子供の休む権利は保障されたといえるのか。と批判的な話しをたっぷりとした。久しぶりに怖くなっていたに違いない。

■さて今回の協議会では結構な量のパワーポイントが資料として提示されたのだが、これがどれもこれも発表オンリーで手元に無い。これについては多くの参加者から配布を希望する声が挙がっていた。ZOOMなんだからチャット欄に貼ればいいだけなんだが、こんなことも出来ないでギガスクールを推進しているのは滑稽だなと思った。(木曜日)