漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

解釈競争

■「教育機会確保法成立後、学校復帰の圧力は弱まっている」という言葉が信じられなくて、漂流日誌のログをあさる。日付赤字は文科省、国会の動き。

  • 2015年3月:「札幌市いじめ・不登校対策連絡協議会」で市教委より不登校の数の増減ではなく「質的改善」を見るとの発言あり。一方、「早期対応」「未然防止」の方針には変わりなし
  • 2015年9月7日文部科学省不登校児童生徒への支援に関する中間報告」にて、「学校復帰以外の選択肢を提示することが、児童生徒の社会的自立に向けた支援となる」との文言。ただし、その中核となるのは学校教育とする
  • 2016年7月29日文部科学省不登校児童生徒への支援に関する最終報告」にて「不登校を問題行動と判断してはいけない」と述べる。ただし、「現実の問題として、不登校による学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在する」として、学校教育の意義、役割を強調。「登校につながる」働きかけを提示
  • 2016年8月:札幌市教員研修「不登校への対応〜関係機関と学校の連携〜」にて市教委、相談指導教室の目的は学校復帰であり、「登校しなさい」というスタンスで対応していると明言
  • 2016年9月14日:「不登校は問題行動ではない」との文科省の通知。ただし、「不登校児童生徒への支援に関する最終報告」と同様、「学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在する」とし、児童生徒や家庭への働きかけを求める
  • 2016年9月:相談指導教室や別室登校を利用していた生徒が「いつまでもここにはいられない」と圧力をかけられたという相談
  • 2016年12月7日:教育機会確保法成立(※一部施行。2017年2月完全施行)
  • 2016年12月:北海道教育委員会「不登校児童生徒支援連絡協議会」にて、文科省モデル事業による教育センター拡充事例の報告。職員が学校を訪問し不登校の児童生徒およびその兆候のある児童生徒を把握、センター利用を勧める
  • 2017年5月:道教委と民間団体との懇談会でいくつかのフリースクールが「在籍校復帰を目指している」と明言
  • 2017年9月:適応指導教室を利用しようとしたら「一週間学校に通って、学校復帰の努力する意志が見えるようにしたら利用を認める」と言われたとの相談
  • 2017年10月:「文科省からの通知(※おそらく2016年9月14日の通知)があるから、子供を学校に来させてほしい。保護者にはその義務がある」と先生に詰め寄られたとの相談
  • 2018年4月:道教委と民間団体との懇談会で、昨年同様いくつかのフリースクールが「在籍校復帰を目指している」と明言

■そのほか日誌には書いていないが、今年度に入ってから、先生がやたらと会いに来る、校門タッチを勧められるなどの相談もあった。あくまで俺の見聞きした範囲でしかないが、学校復帰の圧力が弱まっているとは言えない。むしろ反対だ。

■見返すと2015年までは比較的柔軟な対応をしている。転機は2016年の「不登校児童生徒への支援に関する最終報告」。そのあたりから学校復帰の影が濃くなってくる。文科省の通知や教育機会確保法はその根拠となっている。

■名古屋のフリースクールが「学校の先生は教育機会確保法を曲解している???」という記事を書いていた。この先生は「曲解」してはいない。教育機会確保法は不登校児童生徒の「支援」のため、実情を把握し、学校の環境整備をし、教育支援センターを充実させ、学校外の学習内容と心身状況を把握し、「休養の必要性を踏まえ」つつ必要な情報提供などを行うための法律だ。教師は「もっと子供と関わり、状況を把握し、適切な支援をせねば」と捉えるだろう。「休んで良いと認められた」「学校以外の学びも認められた」というのは、フリースクール側の解釈にすぎない。

■ここからはどちらの解釈が妥当かの力比べだ。横浜市適応指導教室の設置目的から「学校復帰」を削ったらしいので、交渉次第で状況は変えられるのかもしれない。圧力をかけられっぱなしというわけにもいかないので、押し返さなくちゃならないが、どうにも心許ない。なんだろうなー。「うるさいな、休みたいんだから休ませろ」と言いづらくなったというか、解釈競争になった時点でマイナススタートなんじゃないか。いや、まあ、それでもやらにゃならんのですが。