漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

張さん母子

◾️金曜日の宴会でわいわいしている途中に、文部科学省から新しい「不登校児童生徒への支援の在り方について」が出た。ちびちび飲んでいるところの邪魔はしないでほしいプンスカ。

◾️さてこの通知は、「フリースクール等に関する検討会議」の中でフリースクール関係者が訴えていたことへの文科省からの回答と言えるだろう。フリースクール関係者は、教育機会確保法や平成28年版「不登校児童生徒への支援の在り方」に基づいて、不登校を問題行動として扱っている各種通知や法令条文を変えるように訴えてきた。それでは、前回の通知との比較でどこが変わったか比べてみよう。

◾️まず、通知の前文で

本通知は,今回の議論のとりまとめの過程等において,過去の不登校施策に関する通知における不登校児童生徒の指導要録上の出席扱いに係る記述について,法や基本指針の趣旨との関係性について誤解を生じるおそれがあるとの指摘があったことから,当該記述を含め,これまでの不登校施策に関する通知について改めて整理し,まとめたものです

と書いてあるのが、上記についての解説だ。そして、これに続いて平成28年版通知には無かった次の文言が付け加わる。

教職員研修等を通じ,全ての教職員が法や基本指針の理解を深め,個々の不登校児童生徒の状況に応じた支援等を行うことができるよう努めるとともに,

これは、周知が進んでいないというフリースクール関係者からの訴えに応えたように読めた。恐らくこれ以降、十年研修などでもこの通知を特に取り上げて不登校についての対応を教職員に浸透させることが多くなるのだろう。

◾️前文で自分が一番気になったのは一番最後のところ。

なお,「登校拒否問題への対応について」(平成4年9月24日付け文部省初等中等教育局長通知),「不登校への対応の在り方について」(平成15年5月16日付け文部科学省初等中等教育局長通知),「不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について」(平成17年7月6日付け文部科学省初等中等教育局長通知)及び「不登校児童生徒への支援の在り方について」(平成28年9月14日付け文部科学省初等中等教育局長通知)については本通知をもって廃止します。

と、一連の過去の通知を廃止しているが、平成28年版通知には

不登校とは,多様な要因・背景により,結果として不登校状態になっているということであり,その行為を「問題行動」と判断してはならない。不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭し,学校・家庭・社会が不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢を持つことが,児童生徒の自己肯定感を高めるためにも重要 であり,周囲の大人との信頼関係を構築していく過程が社会性や人間性の伸長につながり,結果として児童生徒の社会的自立につながることが期待される。

という調査研究協力者会議が報告した不登校に対する姿勢が明文化されているのだが、この「不登校は問題行動と判断してはならない」という文言が令和元年版には全く無くなっている。フリースクール関係者が法令や通知の見直しを求めた根拠は当にこの文言だったと思うが、これが残っていないことに危機感を持っている記事は、今のところネットでは見かけない。

◾️次に令和版で加わっている大きな部分は、「2 学校等の取組の充実 (3)不登校児童生徒に対する効果的な支援の充実 1.不登校に対する学校の基本姿勢」である。ここで

校長のリーダーシップの下,教員だけでなく,様々な専門スタッフと連携協力し,組織的な支援体制を整えることが必要であること。また,不登校児童生徒に対する適切な対応のために,各学校において中心的かつコーディネーター的な役割を果たす教員を明確に位置付けることが必要であること。

「また」以降が付け加わっている。各学校に不登校対応専門の教員を置くということになる。校内学びの支援委員会あたりに不登校専門の役職が一つ増えるか。

◾️更に「効果的な支援の充実」項目には、丸々一つ項目が加わっている。

6.不登校児童生徒の学習状況の把握と学習の評価の工夫
不登校児童生徒が教育支援センターや民間施設等の学校外の施設において指導を受けている場合には,当該児童生徒が在籍する学校がその学習の状況等について把握することは,学習支援や進路指導を行う上で重要であること。学校が把握した当該学習の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合には,当該学習の評価を適切に行い指導要録に記入したり,また,評価の結果を通知表その他の方法により,児童生徒や保護者,当該施設に積極的に伝えたりすることは,児童生徒の学習意欲に応え,自立を支援する上で意義が大きいこと。

恐らくこれが今回の通知改正の目玉部分である。何故ならこの後にある変更点は・学校は、不登校の後「改めて中学校等で学び直すことを希望する者への支援」として夜間中学があるならそこで学び直せる説明をすること・教育委員会は民間施設との連携協力のための情報収集・提供を行うこと、という2点でしかないからだ。

◾️この第6項目が報道で「学校復帰を前提とした指導が変化した」と言われているのだが、果たしてそこまで積極的にこの文言を読み込んでいいものだろうか、という疑念が湧く。不登校児童生徒の学習状況を学校が把握せよ、という方向性だが、この「学習状況」というのが曲者だ。これは「当該学習の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合」に「指導要録に記入」することになったので、学習状況と言っても、ただ何月何日に来ましたというだけではなく、そこで行う学習項目やその計画、内容についての説明が出席認定のためにフリースクールには求められることになるのではないか。これは厳密に適用すれば、個別学習計画の作成ということになるやもしれぬ。漂流教室では、フリースペースの利用が出席認定されてきたが、それも終わりになるかもしれない。

◾️正直、フリースクール界隈でこの通知改訂を喜んでいるのがよくわからない。だって、上に書いた以外の文言は平成28年版通知と数カ所の用語の変更以外何も変わらないんですよ。変わらないものを出されて大喜びなんて、朝三暮四の猿じゃあないんだから進化しましょうよ。(日曜日)