漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

「衝撃」の先

NHKスペシャル「”不登校”44万人の衝撃」を録画した。日本財団のおこなった調査で出た「隠れ不登校」の中学生推定33万人に、2017年度の不登校の中学生10万9000人を足しておよそ44万人。
www.nippon-foundation.or.jp
NHKには「衝撃」らしいが、はたして44万人は多いのか。日本財団の調査では86.7%が「学校になじんでいる」と答えている(個人的にはむしろその方がすごいと思う)。 古山明男著『変えよう! 日本の学校システム 教育に競争はいらない』によれば、学校設立の自由を認めた国でもオルタナティブ教育を選ぶのは一割程度とあった。13.3%が学校になじめないとして、通常、ひとつのシステムからそれくらいは「はみ出す」ものなのじゃなかろうか。

■だからほっといていいという話には、もちろんならない。ひっかかるのは、学校とのミスマッチを「衝撃」とことさら大きく取り上げ、「学校が合わない子にはほかの学習環境を用意しよう」とする論調だ。やはり日本財団が主催する「#学校ムリかも」キャンペーンではこのように語られている。

子どもの気持ちを汲み取り、受け入れ、特徴や希望に合った環境を用意することは大切ですよね。子ども1人ひとりに最適な社会的な受け皿があり、特性に合った学びが得られる居場所があれば、状況は随分変わると思うんです
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/30979

■最近、この手の話が急に噴き出してなんだか気味が悪いのだけど、俺は少々懐疑的だ。「子ども1人ひとりに最適」「特性に合った」って、その仕分けは誰がおこなうのか。「支援」の名を借りた「排除」とならないか。それ以前に、なぜ子供はどこかに所属し、なにかを学ばねばならないのか。「その子に合った学習環境」論は、不登校のもうひとつの側面-「休む」を無視している。たとえば多くのフリースクールは問い合わせがあっても、すぐに子供を入学させたりしない。休むことも大事と知っているからだ。

不登校をどうにかしようと思うなら、大事なのは「気がねなく休めるかどうか」。再掲になるが、フリースクール利用者のインタビューから抜粋する。

元の学校だったら休んだらもう行きにくくなっちゃうんですよ。でも、フリースクールってちょくちょく休んでるっていうか長期間休んでたりとかがあったんですけど、それでも最終的に行ってみようかなって、またみんなとかと楽しく遊んでっていうことを繰り返してたんだけど、そういうところも違うし、来なくても、ずっと来てなくて急に来てもなにも言われない。そういう空気感とかもけっこうよかった

勉強するペースとかもある程度は自分でつかめたから。中学校とかだと、中学校に行きにくくなった原因のひとつが勉強追いつけねーなーっていうのがあって。フリースクールに行ってちょくちょく休んだりとかしても、勉強はなんだかんだいって追いつけたから。ペース合わせてくれるからってのはありましたね

教育委員会の掲げる「未然防止」「早期発見、早期対応」は、残念ながら「学校とは少しでも休むと大変なことになる場所である」というメッセージになってしまっている。学校が、ちょっと休んでも問題ない場所、すぐに戻って来られる場所になることが必要で、それなしに「その子に合った学習環境」を用意しても学校の大変さは希釈されない。単に子供をふるいにかけるだけに終わる。

■というかNHKも特集を組むならもっと大きな視点がほしいな。不登校は2001年まで増加を続け、そこから減少に転じるが、その後、二度増加している(現在は二度目の増加)。そのときの政権はどこかとかね。たとえばね。