機能不全の世の中で

■何の気なしに手に取ったら面白かった。「10代のセルフケア」というシリーズの三冊目。いいね。中高生はもっとこういう本を読んだ方がいい。

共依存かもしれない―他人やモノで自分を満たそうとする人たち (10代のセルフケア)

■それぞれ求めても必要なことが満たされない。互いに感情を育めない家族がある。共依存とは、そのような「機能不全家族」の中でのみ機能するやり方をいう。ほかには通用しない。それで衝突を繰り返し、周囲も自分も疲弊する。

■そういった家族は、バラバラにならないため独自のルールを編みだすという。「機能不全家族のルール」の章を読むうち、これは家族以外にも当てはまるんじゃないかと思えてきた。たとえばこんなルールがある。

• 家族以外の人間を信用してはならない（問題があっても家族だけで解決せよ）
• 話してはいけない（家族の秘密を他人に話してはいけない）
• 家族に愛されたいなら努力しろ（お前にどんな価値があるか決めるのは家族だ）
• 恥を知れ（お前は取るに足らない人間だ）
• 家族を大事にしなさい（家族の感情を第一に考え、機嫌をとること）

■いじめは、こういう構造のもとに起きるのではないか。とすればそれは、機能不全学級ということになるのではないか（不幸なことに、クラスの和を大事にせよといった指導は機能不全に一役買うおそれがある）。学級どころではない。メダルを取れなかった五輪選手、研究論文に不備のあった研究者に向けられる手のひら返しのような制裁を見ると、国全体で機能不全を起こしているようにすら思える。または生活保護受給者や外国人に向けられる視線。あるいは「絆」の連呼。「自分たち以外を信じるな」「話すな」「恥を知れ」「努力せよ」「身内を大事にせよ」、これらの言葉はすでに巷にあふれている。

• ルールは鉛でできた風船のようです。何も中へ入れないし、何も逃れられないし、広がる余地もありません
• 鉛の風船の中の暮らしは、刑務所にいるかのようです（中略）しばらくすると、誰もがいつでもこのルールに従うべきだと思い始めます
• たいていの場合、ルールに気がつくのは自分がルールを破って、罰せられたときだけです。家族のルールは冷蔵庫に貼ってあったり、暖炉に下げてあったりしないので、秘密の力を備えています（p.44）

■機能不全の家族で育つと、自身の評価や自尊心は、家族の一員であることにかかってしまう。自分をどう思うかは、家族が自分をどう思うか次第になる。これでは、自分をひとりの独立した人間だと思うことはできない。そうならないためにはどうすればいいか。本では、「子ども時代に学ぶ重要な課題」として次のことが挙げられている。

• 自分の世話をしてくれる人を信頼すること
• 自分をとりまく未知の世界を安全に探検すること
• 自分の気持ちを満たす方法を見つけること
• 自分を表現すること
• 自分はこの世界でたった一人しかいない、と知ること
• 自分を肯定すること

■以前、道徳の教科書に周囲を大切にという項があって自分を大切にという項がない、と書いた。または、漂流教室の活動は、外とつなぐのではなくむしろ切り離し、ひとりになって考える時間をつくることなのでは、とも書いた。そのほか「ひとり」についてずいぶん書いた。知らないところを好きに探索するのはエネルギーがいる、とも書いた。それらはここに繋がっていたんだなと思う。昨日の小松さんの日誌にも通ずるか。

子ども時代の基本的な課題を学ぶまでは、人に話すこと、がまんを覚えること、要求が満たされるまで待つこと、といった課題へ進むことができません。がまんを覚えるためには、自分が望むものをいずれは手にできると信じなければならないからです。（p.53）

■これでもはじめの3分の1くらいしか紹介してない。まだまだ書きたいことはあるのだが、あとはそれぞれで読んでほしい。事例もたくさん載っている。漂流教室の役割は（というか俺のやりたいことは）、ともすれば所属や周囲からの目でしか自分を評価できなくなる、機能不全気味な世の中に育つ子供らに、安定した関係と時間の中で「自分」について考えてもらうことなんだな。だから役割や目的から離れたものをつくろうとするんだ。それがわかったのでよし。

■同シリーズではこのほか、デートレイプや妊娠、睡眠障害など10冊が出ている。全部買おうかな。