漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

学習意識の国際比較

■「学習意識調査」のこと。まずは報道された記事を見てみましょう。

学習意識調査:日本の小学生は中韓より「学ぶ意欲」低い
 日本の小学生は中国や韓国の小学生よりも「学ぶ意欲」が低い−−。財団法人「日本青少年研究所」(千石保理事長、東京都新宿区)の調査で、学習を巡る子供の意識に日中韓で大きな差があることが分かった。近年、日本の子供たちの学力低下が取りざたされているが、中韓両国に比べ「学力」以前の「意欲」の低さが浮き彫りになった形だ。

 調査は昨年10〜11月、3カ国の首都に住む小学4〜6年生計5249人を対象に通学先の学校を通じて実施、全員から回答を得た。対象は東京1576人▽北京1553人▽ソウル2120人。

 目指す人間像の一つとして「勉強のできる子になりたいか」と質問したところ、「そう思う」と答えたのは東京が43.1%だったのに対し、北京78.2%▽ソウル78.1%といずれも7割を超えた。「将来のためにも、今がんばりたい」と考える小学生も、東京48.0%▽北京74.8%▽ソウル72.1%で、日本は将来の夢に向けた学ぶ意欲が低くなっている。

 また、「先生に好かれる子になりたい」と答えたのは、北京60.0%▽ソウル47.8%に対し、日本はわずか10.4%。教師への関心や尊敬の念も薄れているようだ。

 生活習慣では「テレビを見ながら食事をする」のは東京46.0%▽北京11.8%▽ソウル11.7%。「言われなくても宿題をする」と答えたのは北京が82.7%と最も多く、東京42.1%▽ソウル37.1%と続いた。【高山純二】

 ▽佐藤学・東京大教授(教育学)の話 高度経済成長期にはリンクしていた「勉強をすれば、いい仕事に就ける」という関係が、低成長時代の今は崩れてしまった。(学ぶ意欲の低下について)約10年前から「学びからの逃走」と指摘してきたが、それが小学校段階でも表れた調査結果と言える。また、大人への信頼や権威が崩れ、大人たちが子供のモデルになっていないため、目標を見失い、さまよっているのではないか。

毎日新聞 2007年3月7日 19時56分 (最終更新時間 3月7日 20時22分)

おお、これは大変だ。では、元になった調査をより詳しく見てみましょう。
小学生の生活習慣に関する調査

■まず、最近話題の「早寝早起き朝ご飯」についてはどうなっているのか見てみましょう。
問1が起床・就寝時間の比較、問2のeが朝ご飯をどれくらい食べるかの比較です。

一番多い起床時間
東京…七時〜七時半 北京…六時半〜七時 ソウル…七時半〜八時
一番多い就寝時間
東京…十時〜十時半 北京…九時〜九時半 ソウル…十一時〜十一時半
どれくらい朝ご飯を食べるか
「いつもする」を選んだパーセンテージ
東京…86.3 北京…84.7 ソウル…62.5

■早寝・早起きは東京が三カ国の中でちょうど二番目ですね。さて、大人のみなさんは朝起きる時間をどうやって決めますか?当然、会社の始業時間に間に合うように起きますよね。ネットで調べたところ、中国の小学校が始まるのは八時から、韓国は九時過ぎからのようです*1。おそらくこれが起床時間の違う理由でしょう。少なくとも、起床時間の前後と学習意識の差を結びつけるよりも、合理的でしょう。

■もっと面白いのは朝ご飯です。三カ国の中で一番朝ご飯を食べているのは東京の子供たちです。文部科学省によると、

こうした基本的生活習慣の乱れが、学習意欲や体力、気力の低下の要因の一つとして指摘されています。
 このような状況を見ると、家庭における食事や睡眠などの乱れは、個々の家庭や子どもの問題として見過ごすことなく、社会全体の問題として地域による、一丸となった取り組みが重要な課題となっています。(「早寝早起き朝ごはん」国民運動の推進について

と日本の子供の生活は随分と乱れているようですが、子供をもっと早起きさせるために一番有効なのは学校の始業時刻を早めることでしょうし、朝ご飯はむしろ食べない方が、学習に対する意識が高い国々と同じ生活となります。

■そうそう、奉仕活動を義務化するべきでないかという話しをどこぞの会議で言ってましたね。それについても問27で調査しています。

問27 あなたは町のボランティアや祭りなどの行事に参加したことがありますか
     よくある たまにある 合計
東 京… 30.3   41.4    71.4
北 京… 18.4   20.2    38.6
ソウル… 3.8    19.5    23.3
※単位はすべてパーセント

なんと、すでに日本の小学生は随分参加しているのですね。こうなると、認識を改めた方が良さそうです。「ボランティアにかまけているヒマがあったら、学習に回せ」と。*2

■食育も今日の教育において、重要な課題とよく言われます。食育を通じて、礼儀作法を身につけることもできますしね。問31ではこんなことを調査しています。

あなたは次のあいさつをしますか
a朝食前「いただきます」(北京なし)
b朝食後「ごちそうさま」(北京なし)
c給食前「いただきます」(北京なし)
d給食後「ごちそうさま」(北京なし)
e夕食前「いただきます」(北京なし)
f夕食後「ごちそうさま」(北京なし)

こんなことをしなくてもおわかりでしょうが、中国では食事の前に挨拶をする習慣はないようです。また、調査結果は長くなるのでここには書きませんが、どの項目においても日本と韓国では日本の方が挨拶をします。特に、給食においては日本は8割以上で挨拶をします。みなさんも給食を食べる前にみんなで「いただきます」、食べ終わったら「ごちそうさまでした」の挨拶をした憶えがあると思いますが、おそらく韓国ではそうした学校習慣はないのでしょう。では、そうした習慣が無い中国人や韓国人が食事や作ってくれた人に対してほとんど敬意を払わないのか。少なくとも、この質問に「そうだ」と言い切ることは、この調査からは言えませんよね。だって、それについてはこの設問では聞いてませんから。ここから見えることは何かというと、挨拶という習慣を固定することと、食事や作ってくれた人に対する敬意を個人が持つことは別個の問題であるということです。

■さてさて、長くなりました。今日の日誌はこれ以外は書きませんが、面白がっていただければ幸いです。

*1:中国…http://blogs.yahoo.co.jp/yorinotorimidori/archive/2006/06/23韓国…http://www.try-tone.net/photo_6.html

*2:実は、北京のアンケートにだけ「町内に行事がない」という回答項目があり、そこには28.3%の回答が来ています。東京と北京にもこれを入れないと平等ではないはずなんですが