■筋肉少女帯のニューアルバムを買った。貨物列車に潜んで街からも「君」からも逃げようとしたオーケンが、「これからは楽しいことしかない」という「君」の言葉を信じて、車を出すから旅に出ようと誘う。人はひとりで生きるのも死ぬのも怖いから道連れを求めているだけだと子猫に「真実」を語らせたオーケンが、COVID-19により人々の内面が暴かれた世界で、それでも愛する人に会えと歌う。
■壊れたおもちゃ箱の世界から逃げるか。いっそドロリとひとつに溶けあうか。あえて戦って散るか。それが今作は世界と自分、自分と他人には越えられない(越えさせたくない)線があると自覚しつつ、それでも越えようとする意志を捨てない。境界線は自分の心にもあって、絶望したり希望を見たり、ラインをまたいで行ったり来たりする。
■いや、案外なにも変わっていないのかもしれない。つらい世界から逃げるのだって爆弾でぶっ飛ばすのだって、反対に静かな地蔵のように暮らすのだって、理想、つまりこうありたいという強い願望だ。だが、オーケンの大きすぎる自意識は理想を歌ってよしとしない。「本当にそれでいいのか」「おまけの人生」「一番ダメな自分は残る」と指摘する。行きつ戻りつ、それでも生きていかざるを得ない。
■そう、生きていかざるを得ないわけですよ。一切つまらない日々を愛せたらお手柄とアルバム最後の曲はそう歌う。