漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

学んで不自由

■『年収90万円で東京ハッピーライフ』について、9月5日の日誌の続き。

年収90万円で東京ハッピーライフ

年収90万円で東京ハッピーライフ

■家賃2万8000円のアパートに住み、週に二日働いて、あとは散歩したり図書館で本を読んだりして暮らす。食事は基本、自炊。野草を摘んで食材にする。近所から野菜を分けてもらうこともある。大好きなスコーンも自分でつくる。貯金も少しだけある。自分の「実感」を大事にする生活。小さなことながら、自分で選びとったもので毎日をつくる。大事なのはひま耐性があること。楽観的でいること。他人と比較しないこと。だが、この本はもうひとつ重要な前提が抜けている。俺もはじめは気づかなくて、ボランティアスタッフと話すうち、ハッとした。

「借金がないこと」

■借金があればそれだけ多く稼がねばならない。月6万円の支出が9万円にも10万円にもなる。週二日の労働であとは「隠居」などと悠長なことは言っていられない。では、なぜ著者に借金がないか。大学へ行かなかったからだ。

■以前、奨学金は遊郭の前借金と同じだと書いた。大学生の2.6人にひとりが奨学金を利用。借入総額の平均は312.9万円。学生の約半分は300万円の「借金」を抱えて社会に出なければならない。高校から奨学金を利用していた、大学院まで進んだとなればさらに額は上がる。とても「隠居」しているヒマはない。

■あるいは海水に似ているか。海で遭難する。飲み水はない。海水を飲めばよけい喉が渇くと知っている。それでも飲まずにいられない。

■学問は個人の可能性を広げるものだと思っていた。自由になるため学ぶのだと思っていた。だが、実際は隠居すらできない。支援ではなく、足かせにしかならない奨学金制度はさっさと改めた方がいい。