漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

訪問を終えて

■私が始めて訪問が終わる経験をしたのは、去年の10月でした。漂流教室の訪問は、基本女の子には女性スタッフ、男の子には男性スタッフが訪問します。それがこの時の訪問先の子は、当時7歳の男の子のA君でした。何故こんなイレギュラーが発生したかというと、前に一度その子とたまたま会っていたことや、本人が私を希望したこと、訪問先の場所などの事情があり、私が担当することになりました。

■訪問がスタートすると、いつも「サービス期間」が発生すると考えています。「サービス期間」とは、家にあるゲームや、玩具や、道具を使って、毎週1時間家に来る訪問スタッフを退屈させないようにもてなそうとしてくれる時期の事です。A君の時も、部屋に入ると机の上に今日一緒に遊びたい物、見せたい物、外に散歩しに行く時はその準備といった、「今日のネタ」が置いてありました。サービス期間中は、相槌だけで一時間が終了することもありました。

■A君の訪問はお昼を跨ぐ時間だったので、サービス期間が終了する頃には、2人で近くのお店までお昼ご飯を買いに行ったりしていました。また、訪問後すぐにA君が出かけるという時は、少し早めに家を出て、駅まで見送ったりもしていました。だからなのか、よくA君から「今日はお昼ご飯を買いに行くから、このくらいに時間に家を出て、大体この時間に帰ってきて、食べ終わったらまたこれをやろう」と、その日の訪問の流れを提案されていました。今思えば、あまり家で過ごさない訪問だったと思います。「時間がもったいない!」と言って、お昼ご飯を買ったお店から家まで走るA君を見ていた時もありました。大人は急に走れない。

■そんなA君の訪問も突然終了しました。初めはお母さんから、その後A君本人から、「もう大丈夫」と聞きました。報告を受けた時は、普段訪問していない日は一人でお昼を買うこともあるみたいだし、一人で乗り継ぎもできるし、そういえば大丈夫だ、と思いました。でもその姿は、一番最初に会った時に、お母さんの陰に隠れて泣いていたA君からは想像できませんでした。そして、その時の姿を知っているのに、たった数年で大丈夫だと思った自分にも少し驚きました。さらに、いつの間に一人で買い物に行ったたり、乗り継ぎをするようになったんだと、一人で乗る姿を何度も見送っているはずなのに驚きました。私は改札までしか行かなかったし、何も教えていないのに。

■最後の訪問は想像以上にあっけなく終わりました。じゃあまたね、と手を振って別れました。A君しかいない時間に訪問していたので、毎週、訪問後はお母さんに報告メールを送っていました。最後のお母さんからのメールには「Aも元気を取り戻して感謝しています」とありました。初めて会った時のA君は元気がなかっただけなんだ、という事に訪問が終了してから気がつきました。

■出来ないことが出来るようになった、のかもしれない。成長? したのかもしれない。なんかずっとだるかったのが治まった気がする。なんか少し元気になったかもしれない。訪問を終えた子が、そんなふうに思ってくれると良いなと思いました。