漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

当事者が求める支援〜生きるのが楽になるために〜

■レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク主催の講演会へ行ってきた。講師は神奈川でヒューマン・スタジオという相談機関を主宰する丸山康彦さん。タイトルは「当事者が求める支援〜生きるのが楽になるために〜」。

不登校やひきこもりを「人生のまわり道」と表す人がいる。だからダメだという人も入れば、それもいいじゃないかという人もいるが、丸山さんは人生にまわり道はないと言う。人は誰もが一本の人生を歩む。舗装された歩きやすい道も、ぬかるんで足をとられるところもある。出口の見えない真っ暗なトンネルに入ってしまうこともある。足元が暗く見通しも悪い。自然と歩みは遅くなる。たとえばそれを「不登校」と呼ぶ。

■まわりから見ればじれったい。どんどん背中を押して早く歩かせたい。または、トンネルの横っ腹に穴をあけ外に連れ出してしまいたい。しかし、本人からしてみれば、いくら押されても暗い道を急いで歩くのは怖いし、穴から連れ出された場所は自分の歩むべき道ではない。どんなに時間がかかっても、自分の足で自分のペースで歩き通したいのだ。

■とはいえ、それはなかなか難しい。自分の足で歩きたいという思いと、早く「普通」の道へ出たいという気持ちとの両方が当事者にはある。丸山さんはそれを「願い(早く復帰したい)」と「思い(自分を殺したくない)」という言葉で説明する。大事なのは、矛盾するふたつはどちらも本心だということだ。「願い」ばかりを捉え社会復帰を急がせたり、「思い」ばかりを重視してあるがままが大事と言ったりするのは、片方の気持ちしか肯定していない。だが、否定された方だって「本心」だ。

■では、まわりはどうすればいいのか。丸山さん曰く、「妊婦に接するようにする」。まさか妊婦に早く産むよう急かすようなことはしない。大変な状態にある人にすべきは「配慮」であり、具体的には生活が楽になるような生活支援や、日常の行動を助ける活動支援が求められる。支援と無関係な人のあつまりが必要という話もあった。そういう場所が居場所となり、それぞれの人生をエンパワーする。そういった場所を支援の場より多くするのが丸山さんの目標だそうだ。

■妊婦はいつか新しい命を生む。それと同じで、トンネルの中にいる人も、いつか「願い」と「思い」の折り合いをつけて「新たな自分」を生み出す。時間はかかるかもしれないが、自分で歩き通し納得することが大事で、まわりはそれをせめて楽に進めるよう配慮するしかない。支援者のよく使う理屈に「ステップ」がある。だが、山歩きをするのに階段だとかえってつらかったという経験はないだろうか。ステップは結局、他人の考えでつくられた段差で、それが歩きやすいとは限らない。それより、ゆっくりでも自分のペースで登れるスロープの方がいい。

■「早期発見・早期対応」を当事者の言葉に、という呼びかけはとてもよかった。求めている場や支援を早期発見して早期対応(利用・参加)できる情報拡散の仕組みづくりが重要とのこと。言葉のパラダイムシフトに、積み重ねてきた思考の強靭さを感じる。惜しむらくは、参加者が30人ほどしかいなかったこと。もっと多くの人に聴いてもらいたい。自分たちで呼ぶか。