■三学期ともなれば中学三年生は受験一色。校内一ぼんやりしている俺のところにも、面接の練習したいから相手してと生徒が昼休みにやってくる。寝たいのに。
■えー、あなたが中学生活でがんばったと思うことはなんですか。部活です。部活はなにをしていましたか。バドミントン部です。がんばった中身を具体的に。中体連で全道大会に出ました。それはいつ。三年生のときです。
■中学校で一番の思い出は。修学旅行です。あの、修学旅行のどんなところが。JRの中です。もしかして鉄道マニア。いえ。では、JRの中のなにが思い出に残ったんでしょう。みんなでトランプをしたことが。
■次の質問。高校に入ったらなにをしたいですか。勉強をがんばりたいです。勉強というと、具体的に。どの教科ですか。英語。どうして英語を。中学時代あまりやらなかったから。やらなかったから? これから必要かと思って。これから。卒業してから。卒業後はどうする予定でしょう。進学します。進学というのは。大学に。
■ってお前らなんだ。なんで俺が微に入り細に入り話題を掘り下げなくちゃならんのだ。「三年間バドミントン部でがんばって、今年度ついに全道大会に進みました」ってまとめて言わんか。「中学校ではあまり英語をまじめにやってこなかったのですが、大学進学を考えているので、高校に入ったら英語をがんばりたい」と言え。それとも一言で答えましょうってルールでもあるのか。
■まあ、わからないわけじゃない。できるだけしゃべりたくないんでしょう。ぼろが出そうで。一生懸命「模範的な回答」を考えている彼らを見るとそう思う。面接とは求められている解を間違いなく答えること、と思ってるんだろう。そうじゃないのにね。ちょっと堅苦しいおしゃべりくらいなんだけどな。
■今からあれこれ要求してもきっとパンクしちゃうから、あんまり相手に質問させるな、どんどん訊かれる方が大変だろ、こことここはまとめておけと添削する。よく考えたら、漂流教室でもそうだった。映画観てきた。なんの。相棒。どうだった。面白かった。どこが。最後のシーン。どんなシーンだったのって、なんで俺がいちいち質問してやらなならんのじゃ。セレブかお前は。記者会見か。
■おそらく、そうやってやりとりを覚えていくんだろう。それまではセレブでもいいよ。でも、いちいちすきまを埋めてくのは疲れるぜ。