漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

「ため波」「うけ波」

赤瀬川原平展の余波で『路上観察学入門』を再読しています。面白い。

松田 ここに『タウン・ウォッチング』っていう、今けっこう売れている本があるんだけど。現代の大衆の消費動向を都市観察からどう読みとるかということなのね。ただこういうふうにしちゃうと僕らにはおもしろくないんだよね。
赤瀬川 何かのためにするという、「ため波」というのが別の方から来て作用すると消されちゃうんだよね。(笑)
藤森 路上観察学の面白さというのは「ため波」に著しく弱いのよね。あっという間におし流されちゃう。(笑)
赤瀬川 「ため波」ボヨヨーンってね。(笑)
松田 だからといって、ナンセンスというか、はじめっからばかばかしいものとか、遊びだとしちゃうとこれまたおもしろくないでしょう。
 それはやっぱりさっき言ってた「うけ波」。(笑)
赤瀬川 「ため波」「うけ波」はだいたい同じ波長で…
藤森 「ため波」は企業から出て、「うけ波」はジャーナリズムから来る。あれには困ってしまうな。
松田 逆にいうと、「ため」「うけ」がないと、何でもないものが残る

路上観察学入門』-対談「街が呼んでいる」から

■「ため波」「うけ波」よくわかります。フリースクールの活動もすぐ、それはなんのためなのか、なんの役に立つのか、という話になる。そうじゃなければ、こんなかわいそうな状況がある、これを放置していいのか、という話になる。「かわいそうな状況」をテーマにするのは「うけ波」の一種です。ただ、人と人が会って一週間に一時間一緒の時間を過ごすだけで、そこに目的も意味もないのです、という話はなかなか伝わらないし、「困難を抱えた子」用の特別な対応をしているわけじゃない、日常生活の一部だと話しても伝わりません。

■12月4日の小松さんの日誌もそうですが、ボランティアスタッフの話を聞いていると、当初持っていた訪問の目的や意味が回を重ねるに連れ薄れていった、という言葉が何度も出てきます。

分にも他人とうまく関われなかった過去があり、だからこそ相手の役に立てる、立とうと頑張ったが、それではうまくいかないことが分かった。今は相手に何かしてやろうという気持ちじゃなく、「ただ会いに」行っている。
ときどき、このままでいいのだろうか、彼の将来に役立つのだろうかと不安になることもあるが、回りがイヤでも変わっていく中、ひとつくらい「何の役にも立たない」「変わらない関係」があってもいいのかなと思う。自分にもリフレッシュの時間になっている。

これは当時、訪問二年目だったスタッフの言葉です。

友達じゃない、先生でもない、何とも表現できない関係ですよね。こんな関係が4年も続くなんて不思議です。でも逆に曖昧だからこそ続いたのかもしれない。そう考えると、曖昧ってすごいなと思います。世の中こんな曖昧な関係ってないじゃないですか。白黒つけなきゃいけないことばかりで、そんな中で、そうじゃなくてもいいって思えること、というか、そうじゃないものもあるって知れたことはすごくよかったと思います。

これは四年間の訪問を終えたスタッフの感想。どちらも見事に「ため波」が無効化されています。ふたりに共通しているのは、むしろ「自分のため」になったというくだりで、自分が楽になることが「ため波」打ち消しには有効なのかもしれません。そういえば『路上観察学入門』の対談でも「面白いかどうか」が常に語られていました。

■もう12年も活動しているのに、いまだにうまく漂流教室の説明ができません。もっぱら俺の能力の低さのせいですが、わかりやすく語ることで「ため波」「うけ波」に影響されることを警戒している部分もあります。できれば曖昧なままにしておきたい。言語化するのは他人にやってもらいたい。ついでに、よそから見た自分の姿はどんなものか興味あるので、漂流教室の研究をしてくれる人を探してます。わりとマジで。

■いや、違うかな。そもそも活動自体をわざと曖昧なままにしているのかもしれません。漂流教室を立ち上げたとき、既存の教育の理屈からズレたところに場所をとった。ああでもない、こうでもない、「××じゃない」でしか説明できないところに。そうじゃないとすぐ名前がついてしまう。名前がついたら鎖がつく。鎖がついたら漂流できないしね。

■で、この逃げ方は恐らく赤瀬川原平ほかから影響を受けています。説教くさくならないよう、狙った感じにならないよう、楽しさだけは残るよう。曖昧さに留まるためには常に動いていなくちゃなりません。

赤瀬川原平林丈二という「ため波」や「うけ波」をキャッチするアンテナのついていない「神様」みたいな人と会って安らぎを得たわけだけど、さて、漂流教室はどうしましょう。ボランティアスタッフが曖昧な活動を曖昧なまま理解して不安にならないために。教育や福祉の本を読むより、赤瀬川原平を薦めた方が本質をつかんでもらえるのかもしれないな。

路上観察学入門 (ちくま文庫)

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