漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

「アタッチメント」について

■ボランティアスタッフの坂岡です。だいーぶあったかくなってきましたね。今日はふだん勉強している臨床心理学的な知識を書いてみます。

■「相手の欠点10個言って、それでも一緒に酒飲んでくれるのが本当の友達や」と松本人志は言ったそうです。僕は別にお酒でなくてもいいのですが、「自分の弱みや痛みを承知の上で一緒にいてくれる存在」が、どれだけ助けになるか、ということは実感としてわかる気がします。

■このように、「自分が辛い時や不安な時、一緒にいてくれる存在」のことを、ボウルビィという精神科医は「アタッチメント対象」と呼びました。(もう少し学問的に厳密な定義もありますが、ここでは大まかに書きます。)人間にとって最初のアタッチメント対象は「養育者」です。ボウルビィは乳幼児の観察研究を行い、小さい子どもがどのようにして養育者を頼るか、また、戦災孤児や特定の養育者から引き離された子どもがどのような発達経過を示すか、ということを調べました。

■後の研究者は、「アタッチメント対象」のことを「安心の基地secure base」と呼びました。幼い子どもは自分の周りの環境に注意を向け、おもちゃで遊んだり、興味を引くもので遊んだりしますよね。しかし、何か不安なことがあると養育者のほうをチラッと見て、「だいじょうぶだよね」と確認してから、また遊び始めます。あるいは、もっと不安なことが起こった時は、泣いて抱っこを求めることもあります。うまく応答が得られないと、不安に囚われ、探索ができなくなります。このように、アタッチメントに支えられて、周囲の環境に好奇心をもち、興味をもって学んだり調べたりできるようになることを、「探索行動」と呼びます。「安心の基地」と「探索行動」は、セットなのです。

■ちなみに、「社交システム」と呼ばれる、仲間や友達を求める行動も、アタッチメントによって促進されることが知られています。こうして、発達に伴い、「アタッチメント対象」は養育者だけに限らず、先生などの専門的な発達援助者や、友人、恋人、配偶者など、広がりを見せるようになってきます。

■後の研究者はさらに面白い研究をしていて、「実験室で養育者と小さな子どもとを引き離した時に見られる子どもの反応の仕方」と、「家庭における日常生活での親子の関わり合い」のパターンが連動していることを見いだしました。そうして分けられた三つのパターンが、「安定型」、「回避型」、「抵抗―両価型」です。

■「安定型」の場合、親から離された時に多少の泣きや混乱を示しますが、親が戻ってくると積極的に接触を求め、容易に鎮静化します。日常では、親は子に対して共感的・応答的で感受性豊かであり、子どもとのかかわりを楽しんでいる傾向が見られました。

■「回避型」の場合、分離しても泣いたり混乱したりする反応が見られず、親が戻ってきても抱きつくことはありません。しかも、探索行動がほとんどみられませんでした。このタイプの子の養育者は、子どものサインや働きかけを無視したり、拒否的に関わることが多く、強くコントロールしようとする傾向も見られました。

■「抵抗両価型」の場合、親から離されると非常に強い不安と混乱を示し、親が戻ってくると近接を求めつつ怒ったりたたいたりするなど、アンビバレントな反応を示しました。また、親に執拗にくっついていて、安心して探索行動がとれませんでした。このタイプの子の親は、子どもとの相互交渉は持とうとするものの、子どもの意図やタイミングと「ずれた」対応をしてしまうことが多く、子どものシグナルに対する相対的な感受性の鈍さが見られました。

■「自分は受容される存在である。困った時は誰かが助けてくれる」と感じる受容型。「自分は拒絶される存在である」と感じ、クールで付き合いを拒む回避型。「自分はいつ見捨てられるかわからない。誰かとくっついていなきゃ」と切迫している両価型。成人のアタッチメント関係を調べてみると、幼児の場合で示された結果と綺麗に整合的に分類されたようです。しかし、人間のアタッチメントスタイルは、「いつもこう」、というわけではなく、今までの体験からの学習によって、状況に応じて活性化されるスタイルが変わると言われています。

■安定型のアタッチメントスタイルをもった人間を育てる対象側の要因は、「近接可能性」と共感的な「応答性」だと言われています。つまり、「見通しをもって安定して利用できること」と「自分のシグナルに共感的に応えてもらえること」です。子どもは共感的な応答を示されることで、自分の不安をわかってもらえたと感じ、安心感や満足を得、他者という者を「信頼のおけるものだ」と認識できるようになります。また、自分の気持ちや意志を把握できるようになり、混乱から抜け出て自分の進む方向性を見出しやすくなります。また、子ども自身も共感的応答性を身につけ、他者とともに体験を共有し合うことに喜びを見出せるようになります。

■「共感的な人間関係のもとで、健康な子どもが育つ? 当たり前のことやん」といわれるかもしれません。ですが、子どもにとって信頼できる人物や安心できる居場所の存否が、いかにその後の社会性の発達や、探索行動(モチベーションや意欲)や、精神的健康を左右するか、ということが十分に知られていなかったのです。「当たり前の絆の大切さ」を目に見える形で浮き彫りにしたところに、アタッチメント研究の偉大さがあると思います……って、なんか知識を列挙するだけで終わってしまいましたね。今度、もう少しここから言えることも書きたいです。