漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

広汎性発達障害早期発見・早期療育の重要性

■初めに岡山の旭川荘療育センター児童院に勤める中島洋子さんが基調講演。上のような理由で遅れて行ったため、終わりの方しか聴けなかった。もっとも、大半は施設の紹介だったとのこと。俺が着いたときにはちょうど活動の様子をスライドで映していた。

■その後、シンポジスト5人によるシンポジウム。立場こそ違え、どの人も発達障害の子供と接している専門家だが、そもそも話し手を複数立てての企画で成功した例を未だ知らない。今回もご多分にもれず時間が足りなくなり、メインであるはずの5人交えての意見交換は行われずじまいだった。

■もっとも、ひとりひとりの話の中身はなかなかなボリュームだった(そのくせ資料が一切なくて、メモをとるのが大変だった)。聞き逃しもずいぶんあるとは思うが、以下に各シンポジストの紹介と、それぞれの話の中で印象に残ったことを記す。

米島広明氏(私立札幌病院静療院 セラピスト)
1歳半検診での心理相談において、対人面に関する問題についての相談または見立てが増えているという話。早期介入により、人間関係の成功体験を積むこと、並びに母子関係のずれを軽減することが可能になる。関わりの薄い子供を相手にするとつい何かをさせようとしてしまうが、そうではなく、子供の主体的な動きに同調することが大事。「自分が周囲を動かしている」という思いが対人関係の成功体験につながる。早期療育については、子供への支援と親への支援のふたつの視点をスムーズに両立させる仕組みが必要である。

館農幸恵氏(札幌あゆみの園 児童精神科医
中島さんの講演内容を引いて、岡山と札幌の広汎性発達障害の子供の受け入れ体制を比較。札幌は療育の場が少ない(資料を写す間がなかったのでうろ覚えだが、受け入れ可能な人数が確か岡山の1/3と言っていた)、また場所に偏りがある、という話をしていた。例えば厚別区にはデイサービスなども含め3つの施設があるが、我が南区にはただのひとつもない。
http://www.hokushokai.com/

甲田氏(札幌子ども未来局)
名前、役職ともに失念。申し訳ない。もともと予定されていた演者のひとりが来られなくなったため、急遽代打で登場された。「さっぽ・こども広場」という取り組みの説明。まるで知らなかったが、平成9年から行われていたそうだ。開始初年度と平成15年度では、自閉症の子供の数が4〜5倍に増えているらしい。
http://www.city.sapporo.jp/kodomo/jisou/sappo.html

安達潤氏(道教旭川校障害児臨床教室助教授)
早期発見、早期療育がうまくいかなかった例として、軽度発達障害と虐待の関係を指摘。道内21の児童養護施設において軽度発達障害と思われる児童の数を調査。児童の平均34.7%が該当するという結果が出た。これは文科省の6.3%というデータを大きく上回る。また、その中で虐待エピソードを持つ子供の割合は74.0%。大半がネグレクトで、早期療育は家族への支援が必須であるということであった。不登校は唯一この話の中に登場。不登校児のうち軽度発達障害を抱えている子供が50%にのぼる、という調査があるそうだ。中学校へのスクールカウンセラー配置が進んでいるが、この結果を踏まえるに、小学校へ配置する方が適当であるとのこと。

氏家武氏(北海道こども心療内科氏家医院院長)
早期発見のメリットについて。1)障害の発症の予防 2)障害の軽症化を図る 3)障害の重症化を予防する 4)二次障害の発生を予防する。逆にデメリットとしては、1)非障害児のピックアップ 2)家族への不要な不安、が挙げられる。専門医の増員および配置はとても時間がかかる。自閉症の初期徴候はすでに明らかにされており、みなが学んで知ることで、専門医がいなくとも早期発見につなげることができる。療育の方法は子供の健全な精神発育の進み方から学べるのではないか、とのこと。また、ここでもやはり家族へのサポートであるという話が出た。

■実は、今日はこの講演会の他に「北海道LDサポート学会」なる会も開催されていた。こころのセンターの方は専門家対象だったため、LDサポート学会は見送ったのだが、そっちに参加した人との間で報告会をしないかという話が出ている。そうやって知識を共有していくのはいいアイディアではなかろうか。他人に説明することで理解が増すこともあるし。開催が決まったらここでお知らせします。