漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

特別支援教育を具体化するために〜人・地域・ネットワーク形成〜

■23日に北大教育学研究科主催で行われたこのシンポジウムは、なかなか面白かった。今年の春から北大教育学部にやってきた田中康雄氏が中心となって企画されたもので、氏が以前関わっていた十勝地方の小学校教師や町の職員の方4名が、これまで如何にネットワークを作ってきたかの話を聞くことができた。

■特に養護教諭の方が校内ネットワークを作ってきた実践例は興味深かった。子供・養育者・教師が「スピード(はやく・はやく)/生産性(いっぱい・もっと)/管理化(まちがいを少なく)/画一性(みんな同じに)」という価値観に取り巻かれているという現状分析がまずあった。この価値観からすると、「教室を抜け出す/椅子を常にゆさぶる/奇声を上げる/思いつきをすぐ言葉にする」といった支援が必要な子にありがちな行動は「わがまま/落ち着きのなさ/自己中心的」という形で理解されやすい。この理解からは「何度も注意する/みんなと同じにしなさいと叱責する」といった指導が導かれるのだが、これはこうした子供たちにとっては大変効果の薄い指導法だ。そもそも言って聞かないから困っていると教師自身が感じているというのに、それを繰り返すだけでは学習能力がないだろう。こうした子供の行動への理解を、ちょっとずらしてやることで対応は格段に変わってくる。例えば「落ち着きがない子」というのを「落ち着くのが難しい子」と見るだけで、「では、どういう時に落ち着くのか見ていこう」というように余裕ができ、有効な指導に結びついていく。

■この余裕を担任だけでなく校内全体に生み出していくために、支援が必要な子供たちに対する校内研修をこの養護教諭は進めた。そして、「教師のこれまでの経験知でない学び・工夫が必要/子供の育ちを信じる情緒的風土の育成/『立ちすくみ、とまどう』担任の受け止め」ということを全体で確認した。こうして、その学校では子供を取り巻く養育者・担任・専門機関・教職員全体がお互いに「できること」「できないこと」を理解しあい、安心感を持ちながら子供と接することができるようになっていったという。この時に「にじみあう」という言葉がやはり出てきていた。

■その他の方の実践においても、一人で抱えずにお互いを如何に利用するかを考える/お互いに任せあうという意識を持つためには、日頃から情緒的な部分も含めたつながりが大事ということがしばしば話題に上がっていた。

■午後は、この方々との討論。ぼくは訪問指導が特別支援教育の中でどのように位置づけられているのか尋ねた。足寄町では、すでにメンタルフレンドが計画の中に入っているというようなお返事を聞くことができた。また、札幌の小中学校教師の方が札幌の現状を語ってくれた。特別支援教育は校内にコーディネーターを置くように指導されているのだが、それは管理職の指示によって任命されているという現状らしい。しかし、どれだけ個人的にそうした子供たちと関わってきたにせよ、ネットワークを作り上げるスキルはまた別物なのでうまくいっていないようだ。ネットワークは一人一人がつながりたいと思うからできてくる。その意識は一つの問題についての興味関心だけではなく、実際に関わっていこうという実践的態度から生まれてくる。この態度は校内全体の雰囲気に大きく左右される。仕事場の環境が整っていなければ、興味関心から実践に移ることは難しい。常々ここでも語っているが「今日は勉強させてもらおうと思っています」というようなことをいう先生が多い。こうした先生を作り上げている職場の環境を変化させることを管理職である校長・教頭先生には求めたい。