■訪問先の子と犬と散歩に行く。
■犬はたたきにスタンバイし、ドアが開くのを今や遅しと待っている。子供は用意に手間取っている。代わりに俺がリードを持ってドアを開けたが、犬はそこから動かない。黙ってこちらを見上げている。子供にリードを渡すと、すっと外に出て行った。
■散歩が大好きな犬なら、誰が手綱を握ろうとかまわず飛び出していくかもしれない。犬にも性格があり事情がある。人もおなじで、いつもと違う状況が起きたとして、たいしたことないと高をくくる人、好奇心にあらがえない人、不安より義務を優先する人、安心できるまで動かない人、いろいろだろう。
■犬は家を出てすぐの草むらに顔を突っ込んで、いつまでもにおいを嗅いでいる。昨日も一昨日も嗅いだろうに、今さらなにがあるのかと思うのは人間の発想で、犬にはきっと毎日毎回で違うのだ。いや、これまた犬に限らない。幼児はいつまでも飽きずにおなじ遊びを繰り返すし、不安から何度も確認してしまう人もいる。
■とはいえ、こっちにはこっちの都合がある。あんまり犬が動かないと、子供はそっと犬の顔をなでる。すると、犬はにおいを嗅ぐのをやめて歩き出す。それがいつの間にか生まれた彼らの取り決めなのだろう。まだなんの取り決めも持てていない俺は、こうやって犬になったり他人になったりしながらそれを見ている。