漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

かちとるにむずかしく、はぐくむにむずかしい

■詩人の吉野弘がなくなったそうだ。彼の詩はほとんど知らないけれど、それでもいくつかは読んだことがある。「奈々子に」という詩が好きだった。

苦労は
今は
お前にあげられない

お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむずかしく
はぐくむにむずかしい
自分を愛する心だ

「奈々子に」の最後の部分。全文は→http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/4650/sub1-3.html

■「自尊心」や「自己肯定感」がいつまでも議論になるのは、内容云々の前に「かちとるにむずかしく」「はぐくむにむずかしい」からなのかもしれない。そこには世の中の仕組みがくっついている。文学はときにこうして、いきなり本丸へ切り込んでくる。

■そんなに「むずかしい」ものならば、もっと手をかけた方がいいのじゃないか。難しい品種は苗の頃から丁寧に扱う。では、この場合の「手をかける」とはなにか。前に中学校での道徳教材に触れ、「他人を大事にし、社会を大事にし、風土自然を大事にしようという項目があって、自分を大事にという項目がない」と批判した。自分を認めることができなくて、どうして他人を思えるか。他人から「あなたが大事だ」と言われなくて、どうして自分を認められるか、と書いた。詩にもある。

自分があるとき
他人があり
世界がある

そういうことなんじゃないのかな。

■でも、こういう「あなたが大事」もあるからな、と最後にひっくり返して終わり。漂流教室を始めて間もないころに一度紹介した詩だけども。なんど読んでも怖いんだ。
「彼ら笑う」石川逸子→http://sora6115.blog57.fc2.com/blog-entry-102.html