漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

「自由」な時間

NHK福祉ネットワーク「ひきこもりからの出発〜青年とカウンセラーの対話」の再放送を観る。第一印象。かつて引きこもっていたという青年の、いま現在の表情の暗さが気になった。内面を顔に出さない人もいるし、カメラの前で緊張もしてたろう。それでもなお引っかかる。

■青年の表情を見ながら、彼は好きにしていい時間を持ったことがないのじゃないかと思った。不登校だったり引きこもってたりすると、暇はたくさんあるような気がするが、あれは案外"現状をじっと耐えるための時間"だったりする。昼まで寝てたりゲームばかりしてるのだって、好きでやってるというよりは、"現状を思うと焦るから、とりあえずそうしてる"だけだったりする。何もしてないわけじゃないのだ。「好きなことをしてる時間」なのか「じっと耐えてる時間」なのか、この辺にいわゆる「信じて待つ」のポイントがある気がするが、話がそれるのでここでは触れない。

■「大学生は講義に出てはいかん」というエッセイを鴻上尚史が書いている。日本の学生はそこまでの青春をつぶして大学に入る、大学の四年間は人生の中で唯一「自由」に過ごせる時間だ、講義なんて受けてる場合じゃない、というのがその理由で、ここからは勝手な想像だが、有名大学に合格した彼も高校までは懸命に勉強してたのではないか。それで大学に入って、周囲に馴染めず、次第に通わなくなる。"耐える時間"を過ごしてたであろうことは想像に難くない。傍目はどうでも、"耐える時間"を過ごす人の内面は忙しい。"人並みにならねばならない"という課題が課せられてたりするからだ。決して「自由」な時間ではない。

■引きこもってから4年。カウンセラーの下を訪れた彼は5年弱のカウンセリング期間を経た後、子ども虐待防止協会でボランティアをし、それが縁で福祉施設に就職する。動きっぱなしじゃないかと観てて思う。ちっとも遊んでない。それじゃ表情も晴れないはずだよ。思い込みで勝手なことを言ってると、そして無茶を言ってると承知しつつ、そう思った。この辺が、俺がスモールステップにやや疑問を感じてる部分なのだが、これも別の話だからここでは触れない。

■大学に通わなくなり、住み込みでパチンコ屋で働いていた彼は、なぜ実家に戻ったのか。*1引きこもりとなったきっかけを、番組では「人間関係の構築が苦手」というところに求めていたが、彼が引きこもったのは、明らかに自宅に戻ったからだ。それまでは、ともかく働いてはいたのだ。家に戻ったことを責めるわけではない。「たられば」の話をする気もない。彼はどういう気持ちで働いていたのか。そこをもっと詳しく知りたい。ひょっとしたら、始めて"好きにしていい時間"を過ごしてたのかもしれない、と思うから。もちろん、"何もしてないと焦るから、とりあえずそうしてた"のかもしれないけれど。続編があるのなら、ぜひここに焦点を当てて欲しい。

■カウンセリングの様子を撮ったVTRは、自分のやり方と比較できて、非常に参考になった。同じ箇所を本でも読んだが、間や呼吸、声音などがわかる分、やっぱり映像にはかなわない。自分のことだけ考えればカウンセリングの記録をもっと観たいが、これはただのワガママなので、別になくても構わない。

*1:番組のもととなった、横湯園子著『ひきこもりからの出発―あるカウンセリングの記録』には、「両親に大学に行ってないことを知られた時期と、アルバイト先での社員旅行の参加資格を得た時期とが重なったこともあり、多人数での行動に苦痛を感じていた彼は実家に戻る決心をする」とある