漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

北風と太陽

■自宅に18年間閉じこめられたままだった女性が保護された、という事件が福岡であった。義務教育も一切受けてなかったということで、早速、不登校対策見直しの声が挙がっている。確かに、育児放棄による不登校というケースは稀にある。そういった家庭を発見するのに、学校は威力を発揮するだろう。俺も期待している。だが、発見できたから対処もできるかというと、それは話が別だったりする。

■福岡の事件で、その子の母親は「子供に発育上の障害があり、恥ずかしかった。外に出しては迷惑と思った」と供述している。恐らく誰にも相談できなかったのだろう。この家庭に必要なのは味方であって、親の義務を迫ったりすることではない。その点、学校は巨大な加圧装置となる恐れがある。

■長野県で、高1の男の子が首を吊って自殺する、という事件が起きた。いじめが原因で学校を休んでいたという。例によって学校はいじめの事実を認めていない。数年前、いじめについての講演を聞いた。いじめには三つの段階がある。「孤立化」「無力化」「透明化」で、「孤立化」の段階では、その子が如何にいじめられても仕方のない人間か、徹底した「PR作戦」が取られる。その作戦には親や教師も無意識に荷担していることが多い。そういう話だった。とすれば、この高1の男の子にとっては、教師もまた加害者のひとりであったかもしれぬ。報道に依れば、担任ほかが家に来て、登校再開を合意した矢先の自殺だという。彼が自殺したのは、ひょっとしたら「学校に行かねばならなくなったから」なのかもしれないじゃないか。そういう圧力をかけてしまう危険性が、学校というシステムにはある。

■常々疑問に思っているのだが、災害や事件が起きるたび、頼みもしないのにスクールカウンセラーがやってきて「心のケア」とやらに取り組むのに、いじめを受けた子のもとにスクールカウンセラーを寄越さないのは何故だろう。少なくとも、学校の先生が行くよりは効果があるに違いない。福岡のような場合なら、ソーシャルワーカーの方がいいのかもしれないが、まあ、この際名称はなんでもいい。「北風と太陽」ではないが、圧力をかけない方法を考えない限り、問題は内に内にこもって見えなくなる。一方、問題のない家庭を追い込むことにもなるだろう。今後の不登校対策、いじめ対策は一考を。具体的には、学校の都合ではなく、その子(または家庭)の都合をまず考える第三者を挟むことの検討を。


■訪問先が1件休みになった空き時間にこの文章を書いた。休みがちな訪問先で、まだ数回しか会えてない。子供と会えない不安は、何も学校だけのものではない。幸い、その子はスクールカウンセラーとは会っているので、そちらと連絡をとっている。場合によっては、フリースクールだって間に誰かを挟む必要があるし、その用意もしている。