漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

芸術の力

■消えつつあるのは里山だけではない。実は砂浜も失われている。防波堤や埋め立て工事が潮の流れを変化させ砂が運ばれてこなくなった。川から流れ込むはずの土砂はダムがせき止める。砂の流出が堆積を上回り、このままでは今世紀末までに日本の海岸の9割が半分以下の面積に、また6割が完全に消滅するという。砂浜がなくなれば、海岸を生息地、産卵場所とする生き物に打撃を与え、波が直接陸地に押し寄せることで高潮の被害も増す。

■そんな貴重な砂浜が石狩にはまだ残っている。そして札幌芸術の森には、オランダの芸術家、テオ・ヤンセンがつくった浜辺に生きる生き物「ストランドビースト」が来ている。ぜひビーストを石狩浜で走らせたいという人たちがあつまって実行委員会をつくり、イベントを開いた。縁あって俺も会の末席に加えてもらった。

■朝、芸術の森にビーストを引き取りに行く。名前は「マニマリス・オルディス」。前日には会場となる石狩浜にテントその他機材を運び込み、区割りをし、整地した。そこにビーストが立つ。青い空と海、白い砂浜を背景にしたビーストは建物のなかで見るのとは印象が違う。確かにここにいる生き物なんだと感じた。砂浜がなくなれば、ストランドビーストの生息地もなくなってしまう。実物を見るだけなら美術館でも充分だけど、砂浜の生き物は、やっぱり砂浜を歩かせてこそ意味がある。



(砂浜に立つビーストと倉庫に眠るビースト)

■イベントは1000人もの人があつまり大成功に終わった。環境関係のNPOを中心に、大学関係者、アート、子育て、教育、若者支援とさまざまな団体がボランティアにかかわり、石狩市芸術の森もバックアップしてくれた。思ったより風が弱く、あまり歩いてはくれなかったが、ハシビロコウのように動かないことで有名な生き物もいる。動物を相手にするというのはそういうことだ。(その分、動いたときの歓声といったら)

■芸術ってやっぱりすごいなと思う。こんな風に人と人、人と環境をダイレクトにつなげてしまう。だからこそ、おそれる人もいる。あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」が攻撃されたのはそのせいだろう。公開中止となったのはまったく残念だし、腹立たしい。このことで、気に食わない表現は脅してやめさせることができると世間は学習した。為政者の考えに沿っていればお咎めなしということも。愛知県知事がまっとうな人だったのが救い。(8/5夕)