漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

ひとのま その1

富山県高岡市にあるフリースペース「ひとのま」を見学してきた。

■到着すると、入り口には二羽の鶏がいた。思い出して書いてみると、シャレみたいだ。到着前にメッセンジャーで「麻雀始めるからゆっくりどうぞ」と連絡が来ていたので、まだやっていると思いつつごめんくださいと声をかけたら、ひとのまを運営している宮田さんが麻雀している食堂から出てきてくれた。オーラスで西入しそうだという。漂着教室でやっていることと、とても似ている。茶の間のようなところで待つことにした。茶の間には漢字の練習をしている少年と、DSでどうぶつの森をやっている女の子が二人いた。軽く挨拶して、木村くんと座ってぼんやりしたり、麻雀を見に行ったりして待っていた。

■麻雀は、宮田さんとひとのまに泊っているおじさん、利用している少年、近所のおじいさんの四人で打っていた。四人ともずっと軽口を叩きながら打っている。少し様子を見たがまだまだかかるようなので茶の間に戻って過ごしていると、今度は女性が玄関を開けて入ってきた。その人に挨拶してから麻雀を観ていた話をすると「麻雀できるんですか、どれくらいやっているのですか、すごいですね」と矢継ぎ早に話しかけてきた。ああ、こういう人は漂着教室にもいるなあ、と思いつつ話していた。

■麻雀が終わってから、宮田さんと少し自己紹介的な話をしていると、今度は六時からのご飯を作る人がやってきて作り始めた。今日はうどんを作るのだという。台所には食品衛生責任者の票が貼ってあるが、期限は切れていた。宮田さんもそちらの方に行き、再び利用者と少し話したり、部屋の中を見ていた。部屋の中はかなり雑然としている。ソファとテーブル二台、大きなテレビがある。庭の方は本州の家らしく縁側がある。似顔絵の描かれた障子は所々破れていて、縁側にはボードゲームやら家電やらがごちゃっと置いてある。部屋には大き目の棚があり、しまう余裕はたくさんありそうだ。でも、みんなが出して使っているうちにこうなっていったのだろうとわかる。「女子供の会」という書いた紙が吊り下げられていて、ぶつ森をやっている女の子に「これはなに」と聞いたが、先ほどたくさん話しかけてきた女性が何となく書いたもので、特に何もしていないという。ああ、あるある。

■うどんが出来た、と声がかかったので食べさせてもらった。デスソースが話題になっているらしく、小学生の女の子が「これかけないの?」と食べようとする人に茶化して勧めてくる。おれにも勧めてきたが、辛い物は大好きなのでデスソースを舐めて見せるとびっくりしていた。同行している木村くんが持ってきた辛い辛い唐辛子があり、それも話題になった。「おれ、辛いのだめなんですよ」「おれは強いですよ」その頃にはもう何人かの若者が増えていて、唐辛子をかけるかけないという押し問答を楽しんでいた。この唐辛子は「辛い、けどすごく美味い」と好評だった。

■うどんを食べてから、宮田さんとまた話した。宮田さんは九州出身で奥さんがこちらの人なので住むことになったという。不登校の子供の居場所を作るということを考えたが、徒手空拳でとりあえず知っている人に声をかけていると物件を紹介され始めることができた。ずっと開けているので、次第に近所の人が来たり、行き場所の無い人も来るようになった。あそこなら引き受けてくれる、ということで行政も頼りにするようになってきて、相談の電話もかかってくるようになってきた。ひきこもり系の相談にはとりあえず出向き、話しをするという。基本的にはひとのまに来るように勧めるそうだ。出向いたときに反応が良くないことは当然で色々な言葉をかけるという。例えば、会う会わないを決めるのは当然の権利だから会ってくれなくていいけど、自分がまた来たい時には来るつもりそれは自分の自由だから、という語りかけなどしつつ、何度か会うようにして変化を待つそうだ。ひとのまにかかるお金は持ち出しで、自分の食い扶持は塾を月・水・金にすることで稼いでいる。

■これくらいを話したところで、ちょうど水曜日だったので塾の時間になった。塾の時間は、二階の部屋でやるというので着いていった。先ほど下でぶつ森をしていた女の子と通信制高校に通う少年が上がって来て、勉強を始めた。女の子は二人とも小学生かと思っていたら、一人は中一だった。不登校だという。学校からもらったプリントや自分で持ってきたドリルをやるようだ。宮田さんはわからないところがあったら聞いてきて、と話してノートパソコンで仕事をしながら様子を見ていた。三人は勉強とは関係のない話をしながら、たまに問題を解く。こちらも軽く受け答えしながら様子を見ていたら、外がカエルがゲコゲコ鳴いている。何カエルだろうと話していたら、さっき一緒にうどんを食った一人が学芸員の資格を持っていると宮田さんがいう。女の子の一人がたたたと降りて呼んできてくれた。おれと木村くんは、やってきた彼から富山県に住むカエルや爬虫類の話を聞き、北海道の生き物の話をした。

■一時間も経っていないくらいで、勉強はもういいや、と三人は下に降りた。下には更にお客さんが来ていた。これからはひと段落ついたので飲もうということになり、おれと木村くんは酒を買いに近所のスーパーまで車を走らせた。(続く)