漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

サボるとツラい

■みなさんは仕事をサボったことがありますか。俺はあります。サラリーマンのころです。

■最初の関門は、職場に電話をかける、です。いま家を出ると間に合うぞ、という時間に電話をかけると、「いいからまず来い」と言われかねません。早退はいいが休むのはいかん。具合が悪くてもまず出社してそれから帰れ、という謎の掟がある会社(というか上司?)でした。といって遅くては、そのことで余計に叱られるかもしれない。早過ぎず遅過ぎず、できれば面倒な上司がまだ出勤してない時間を狙う。これだけでかなり疲弊します。

■意を決して電話をかける。「はい××です」。やばい面倒な上司だ。でも、ここであきらめるワケにはいきません。「すみません、体調を崩しまして、今日は休みたいのですが」。なるべく調子が悪そうな、でも演技過多にならないような声音で伝えます。「あ、○○の件は明日以降に、ということなので、特に急ぎの仕事はないんですが」と、今日くらい休んでも問題ないということもアピールしておきます。

■なんとかかんとか追求をクリアして、無事に休むことができました。電話を切った瞬間、ここが楽しい気持ちのピークです。一仕事なし終えたあとの解放感。このあとの時間は自由に使えるぞ。まずはもうひと眠りだ。ところが、楽しいはずの気分は急速にしぼんでいきます。30分ともちません。

■そもそも外に出られません。具合が悪くて休んでるはずが、外をふらふらしてるところを見つかった日にはどうなるか。なんてことでしょう。時間はあるのに映画も観に行けず、うまいものを食いにも行けず、ドライブにも行けないのです。それに遊んでくれる人もいない。なぜならみんなサボらずに仕事してるから! それで結局、家でテレビ見たりゲームしたりするわけですが、そうなるとやってくるのが、明日の不安です。明日どんな感じで行けばいいだろう。早めに出社して仕事してた方がいいんだろうか。体調について質問されるかな。いない間に仕事のミスが見つかったらどうしよう…。もう全然気持ちが休まらない。

■で、無理やり寝てたりすると、昼の家は案外人が来るのです。知らなかった。だっていつもは出かけてるから。郵便だの集金だの勧誘だのがやってくる。そのたびに会社の人じゃないかとビクッとしたりするのです。心臓に悪い。家にいてはいけない。でも出かけることもできない。なんだこれ。ちっとも楽しくないぞ。

■ちなみに本当に上司が家に来たことがあります。あのときは死ぬかと思った。あきらめて帰るまでチャイムは全部無視しましたが、そうなると別の心配が出てきます。明日、絶対に追求される。「家に行ったけどいなかったぞ、どうした」。病院へ行ってたことにするか。でも、レシートを見せろと言われたら困るな。結局、寝てて気づかなかった、という平凡な言い訳で切り抜けるしかないと判断。なんと言われても押し通す。その覚悟でまたくたびれる。

■少し気持ちがやすらぐのは18時以降、勤務時間を終えたときです。まだ残業してる人がいるかもしれないけど、俺の就業時間は終わった。一応、自由。なんのことはない。サボってても会社の時間に縛られている。いや、むしろ悪い。出勤していれば夜に飲みにも行けたけど、体調がすぐれないことにしちゃったせいで、夜も家にいなければいけないのです。夜が更けるにつれ増す明日への不安。いっそもう一日休もうか。でも、このつらさが倍になるだけでは。いやしかし…。煩悶しているうちに朝です。

■ということで、「サボっているところを誰かに見られたりとがめられたりしても、いいや、そのときはそのときだ、と開き直れる心がタフな人」以外は、会社を休んでも実はなにも楽しくないのです。行きたくない会社に余計行きたくなくなるだけです。(だからサボんない方がいいよって話じゃありません、念のため。俺の心持ちの話です)

■で、これって不登校の子供ら(一部は保護者にも)にも通じるんじゃないのかなーと思うのでした。休んだせいでさらに休む。連絡しなきゃと思うと気が重い。昼間外に出られない。下校時間はちょっとホッとする。誰か家に来るとこわい。でも、ひとりじゃ学校のことばっかり考えちゃう。だからってわけじゃないけど、漂流教室の活動はこんな感じになってます。

  • ドタキャンOK。玄関先でのキャンセルもOK
  • フリースペースに行かない、という連絡はいらない
  • 訪問に行くまでに充分本人の同意をとる(突然行くことはしない)
  • 会ってるあいだは学校のことを考えなくていい時間
  • 登校の有無は問わない(不登校だから来ているわけではない)
  • 年齢も問わない( 〃 )
  • 会いたいから会いに行っているという姿勢。こっちの都合につきあってもらっている

フリースクールの抱える問題として、どうしても不登校を意識させてしまう、ということがあります。それは学校を意識させるということです。「フリースクールに通う」とすぐ決められる人は、会社を休んでも大丈夫な人と同じ、ある意味タフな人です。意識しすぎて大変な人は、まず学校を忘れるところからスタートしたい。そうしないと、「学校に行っていない自分」がいつも前に出てきてしまう。忘れる時間が一時間でも二時間でもあると、そこで「いまの自分」を確認することができます。

■そうやって過ごすうちにいろいろ整理がついて、「それはそれだ」と思えるタフな心も育つんじゃないかな。あと、仕事をサボったことない人は、一度サボってみてください。そんなヤツいないだろと思って訊いてみたら、結構いるんだよ。マジかー。

■という話も出るかな。今日は江別で対談です。相手はどんぐり広場の一色さん。18時半から、野幌公民館2階研修室4号です。会場費300円でごんす。まだ間に合うぞ!