漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

We can't get no satisfaction.

■「かぐや姫の物語」を観た。びっくりするくらいいい映画だった。「竹取物語」の筋そのままにこんな素晴らしい映画になるなんて。

■竹取の翁と媼が赤ん坊のかぐやを抱いて散歩する。竹林が風に揺れるのを見たかぐやが笑う。とたんにかぐやの身体がひとまわり大きくなる。かぐやのまわりを蝶が舞う。かぐやが笑う。身体がまた大きくなる。子供にとっては世界のすべてが「発見」だ。次々に新しいことを吸収して子供は成長する。

■翁と媼は驚きつつも、かぐやが大きくなったと喜ぶ。かぐやが笑えば彼らも笑う。だが、それは長くは続かない。竹から金の粒と高価な着物を得た翁は、「この子を都で育て、然るべき人のもとへ嫁がせねば」と考える。それが自分の「使命」だと。

■「使命」にかられた翁は、もうかぐやを見ても笑わない。なんでも吸収してすくすく育って、これまではそれで十分満足だった。だが「使命」に照らせば、あれもこれも足りない。こうしてかぐやは、生まれ育った里山や遊び仲間と別れ、都で行儀作法と習いごとを強要される。そこから先は、故・雨宮まみのレビューが詳しい。

■翁に悪意はない。真剣にかぐやのことを考え、かぐやのために奔走する。だが、その過程で、かぐやを「なにもできないダメな子供」として扱っていることに気がつかない。

■ただ笑っているだけでよかったのに。成長がただただ嬉しかったはずなのに。どうして人はそれだけでは満足できなくなるのだろう。勝手にラインを設定し、見比べては至らないと嘆く。かぐやが笑って、翁と媼が笑う。あの美しいシーンを見た瞬間、その終わりがはっきりわかって、うっかり涙ぐんでしまったのでした。