漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

調査はリセットできないのか

■またぞろ小中学生相手の漢字の読み書き調査があったようで、新聞各紙があれも書けないこれも読めないと記事にしている。いい加減食傷気味で、コメントする気も起きない。ただ、ちょっと思い出したニュースがある。

死んでも「リセット可」=15%が「生き返る」−小中学生に意識調査・長崎県時事通信 1/25)

15%以上の児童生徒が「人は死んでも生き返る」と考え、その理由として「ゲームはリセットできるから」と答えた子供もいた−。佐世保市の小6女児殺害事件を受けて、長崎県教委が県内の小中学生約3600人を対象に実施した「生と死」のイメージに関する意識調査で、こんな結果が24日まとまった。
調査対象は小学4年と6年、中学2年生。「死んだ人が生き返ると思うか」と尋ねたところ、全体の15.4%が「生き返る」と回答。うち、一番多かったのは中学2年生で18.5%を占めた。小学4年生と6年生は、それぞれ14.7%、13.1%。理由については、「本や人から見聞きした」が49.3%で全体の半数近くを占めたが、次いで「テレビや映画で見た」が29.2%、「ゲームでリセットできるから」が7.2%となり、人の死をゲーム感覚で受け止めるような様子もうかがえた。 

■この記事を読んだ最初の感想は「冗談だろう」だった。「こんなことを信じてる子供がいるなんて信じられない。冗談だろう」ではなく、「こいつら冗談で答えたんだろう」の「冗談だろう」だ。だって、「死んだ人が生き返ると思うか」なんて人をバカにしすぎている。去年一昨年と長崎で起きた事件を受けての調査だとはすぐ推察出来るだろうし、県教委の意図も勘のいい子なら気づく。そんなもの、真面目に答える気がしなくて当然だ。「生き返る」との回答が一番多かったのは中2、というのがそれを証明している。

■調査の全容は長崎県教委のサイトで見ることが出来る。それによると、件の項目は「死んだ人が生き返ると思いますか」という質問に「はい/いいえ」で答える形となっているが、理由については別に、「はい」と答えた児童生徒に対して担任の聴き取り等によって追跡調査したらしい。この時点で、「はい」と答えた子供は相当ウンザリしてただろう。追跡調査の項目は次の通り。

  1. テレビや映画等で生き返るところを見たことがあるから
  2. 生き返る話を聞いたことがあるから(テレビ等を見て・本を読んで・人の話を聞いて)
  3. ゲームでリセットできるから
  4. その他(自由記述)

■テレビとゲームに原因を見出したいという意図がありありだ。ほとんど誘導である。ウンザリした子供相手に、こういう方法で出した調査結果が信頼に足るかどうか、推して知るべし。

■俺が気になるのは、「担任の聴き取り等による追跡調査」という点。別に聴き取りにしなくとも、別欄を設けて記入してもらえば済む。聴き取りの方法がわからないのであくまで想像でしかないが、これって、どの子が「はい」と答えたか担任は把握してるということじゃないのか。であれば、教育委員会でも把握できるだろう。その子らに対して“何か特別な教育”がなされることはないのか。不自然な調査方法に、ついそんな邪推をしてしまう。

■この調査、他にもいろいろ設問があって、「家族や親戚などで、赤ちゃんが生まれたときの喜びを感じたことがありますか」や「家族や親戚など、身近な人が死んだときの悲しみを感じたことがありますか」なんて項目もある。それで、それぞれに十何%だかが喜びや悲しみを感じなかった、気になることだ、とかなんとか考察してるのだが、考えてみて欲しい。少子化、高齢化はさんざん言われてることで、そもそも生誕や死別の経験をしていない場合だってあるはずだ。経験がなければ、「喜び(悲しみ)を感じたことがありますか」と問われて、「いいえ」と答える可能性はある。そして、経験の有無はこの質問からはわからない。つまり、そもそもの問いが不完全なのだ。そこから導かれる結論が信頼に値するかどうか、これまた推して知るべし。

■俺が5歳のときに弟が生まれた。父親に連れられて病院に行った俺は、しわくちゃで真っ赤な弟の顔を見て、怖いと病室で泣き叫んだ。6歳のときに祖父が死んだ。小学校に上がったばかりの俺は事態がよくわからず、寺の広い本堂が楽しくて、従兄とかくれんぼをして遊んでいた。次に葬式に出たのは中3である。俺が中2でこの調査を受けたとしたら、恐らくどちらも「いいえ」と答えたろう。そんなもんだ。穴のある調査で深刻ぶる前に、ちょっとは自分の子供の頃を思い出してみるといい。


本日の脳内BGM:OVER(O.P.KING