漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

ひさびさの相談支援パートナー研修

■8月22日、札幌市教委主催の相談支援パートナー研修に行ってきた。何年ぶりだろうか。会場はちえりあの一階ホール。200名近くいたように見えた。

■外部講師は呼ばず、市教委の教育相談課職員がスライドをつかって説明する。相談支援パートナーの役割は、

不登校の未然防止・早期発見対応など、学校の支援計画に基づき支援を行うためのお手伝いをする有償ボランティア

とのこと。昨今の不登校児童生徒の増加を受け「より一層重要性が増している」のだそうだ。今年度から小学校にも全校配置された。およそ430名が任に当たる。うち半数は退職教員。

■なぜ未然防止、早期発見が大事か。もちろん文科省の方針だからだが、データがある。2022年度の札幌市の不登校児童生徒4,836人のうち半数以上は前年度不登校ではなかった。「新規」の不登校児童生徒がこれだけいる、しかも学年を追うごとに増えるとなれば、その前に手をうちたくなるだろう。特に小学校では効果が高く、2023年度に支援を受けた不登校および休みがちな児童738名のうち改善傾向が見られたのは614人(83.2%)。うち5割が未然防止および早期対応によるものだった。また、低学年ほど学級へ戻りやすいとの統計が出た。ちなみに中学生になるとなかなか教室へは戻らないが、登校日数増などの変化は小学生とは逆で学年が上がるにつれ増える。受験が契機になるのだろう。

■では、どんな支援がいいか。これが一筋縄ではいかない。なぜなら、効果的な支援は方法はひとつではなく、子供や状況によって変化するからだ。そこで学校との連携が必要になる。登校時の出迎え、別室での関係づくりや学習支援、給食をともに食べ、下校時は見送る。すぐに効果が出るとは限らない。また、子供の素っ気ない返答や怠けたような態度に困惑することもある。そういった「目に見える、言葉や行動」の背景にある思いに目をこらし、ゆったり共感的にかかわる。根気強く一定のかかわりを継続するのが肝要だ。さらに、そこで得た情報を教師にフィードバックする。それにより有効な支援計画が立てられる。教師も人間なので、責められると足が遠のく。肯定的な反応を積極的に伝え、よりよい連携を築いてほしい。

■その後、10分ほどほかの相談支援パートナーと情報交換の時間があり、相談支援リーダー2名の話を聞き、活動の留意点を伝えられて終了。「子どもについての表現に配慮せよ」とどこかのトラブルの影響を受けた文言もあった。締めは、

困りを抱える子どもたちへ
おおらかに こまやかに さりげない
支援を、引き続きお願いします

とのスライドで終了。妙に整っているので、きっと誰か著名な人の言葉なんだろう。

■いくら有償とはいえボランティアにずいぶんいろいろ注文するなと思うけれど、まあ、そこはいい。それより、困りを抱える子供に対して「おおらかに、こまやかに、さりげない」支援を続けたとして、成果をなにで測るのか。結局は、登校日が増えた、教室に入るようになった、つまり「不登校を脱した」か否かではないか。もちろんそれも「成果」だが、それは結果的にそうなっただけであって、目的に据えると急にギクシャクする。

■相談支援リーダーのひとりは子供の意思決定こそ重要だと言った。意思決定を育む安心基地が別室である。教室以外でも子供は成長すると説いた。もうひとりは、相談支援パートナーはいるだけでいいのだと説いた。子供は別室に逃げているわけではない。教室復帰が重要なわけではないとも言った。だが、相談支援パートナーはそもそも不登校を防ぐために置かれている。子供の「意志」に教室復帰を潜り込ませ、別室から出そうとするのじゃないか。市教委は何年か前から「質的改善」という表現で人間関係の改善なども効果に含めているが、本丸が学校復帰、学級復帰なのは前段の統計説明でも明らかだ。

■教室復帰は重要ではない。子供の意思決定を尊重する。個々にあわせ根気強く一定のかかわりを継続する。そのように相談支援パートナーはあるという。だが、その結果は登校状況の改善で測られる。「子供の問題」としてスタートさせ「学校の視点」で解決か否かを決める。

不登校で困っているのは実は大人であり、連携を必要としているのも大人で、なのに支援されるのは子供なのが、不登校問題の根幹だろう。「大人の不安を解消するため子供を追い立てる」という不登校の図式がきれいにあらわれ、目まいがしたのだった
平成28年度不登校児童生徒支援連絡協議会 - 漂流日誌

以前にこう書いた。不登校を起点に対策する限りこのズレは続く。そのズレにあえて乗らないのが、異質な他者たる相談支援パートナーの役割じゃないかと思うんだけどな。

■地下鉄の駅を出て事務所に向かって歩いていると、前から山田とボランティアスタッフが歩いてくる。「おう」と手を挙げるもふたりとも反応なし。一瞬、自分はここにいないのではないかと疑ってしまった。俺のことだから人違いをしたのかもとも思ったが、確認するにやはり本人だったようで、やっぱりあの瞬間存在してなかったのかもしれない。