漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

思春期とは

■録画していた「“思春期”リスクテイクの人類戦略」を観た。一昨年に放送された番組の再放送。

■人間の脳は巨大すぎて身体と一緒に成長させられない。それで10歳くらいまでにある程度脳を形づくり、その後、一気に身体を大きくする手法を取る。これが第二次性徴で性ホルモンの分泌が活発になる。性ホルモンは脳にも影響を与える。具体的には、感情をつかさどる扁桃体と報酬や快感を求める側坐核が活性化する。感情を抑えられなかったり、無鉄砲な行動を起こすのはそのせいだ。

■脳にはミエリンという物質が絡みついている。ミエリンに覆われた部分は処理速度が向上するが、刺激への反応は鈍くなる。思考がルーティン化するというわけだ。脳の成熟とともに本能担当の脳幹部分と理性担当の大脳皮質がミエリンでつながれ、衝動を抑え込めるようになる。これが思春期の終わりで、だいたい30歳ころだという。

■番組では簡単なゲームをしていた。風船をクリックで膨らます。大きく膨らませられれば高得点だが、割れたらゼロ。いつ割れるかはランダムに決まる。大人は慎重に押し、そこそこの大きさでやめてしまう。だが、子供(18歳だったかな?)は割れるのもいとわずどんどんクリックする。たいていは失敗するが、ときに大きな報酬を得る。

■アフリカのある部族には思春期の若者だけで狩りに行かせる風習があるそうだ。大人はこれまで獲物が取れたところで狩りをする。だが、若者は未知の場所へ行く。たいていは失敗に終わるし、命の危険もあるが、新たな狩場を発見する可能性もある。見つかれば部族の利益になる。

■ゲームや動画に夢中な子供らを見て、つい「いつまでおなじことをしているんだ」と思ってしまうが、あれはあれでなにか新しいものを得るためのtry & errorなのかもしれない。そんなことを考えた。そうだとして、得られる「報酬」がなんなのかという問題もあるわけですが。とりあえず、報酬をお金と考えれば、わりとあちこちに「報酬」は用意されている(そればっかりなのが難点ともいえる)。あちこち踏み込めば、なにかを得られる可能性はある。冒険を許す環境があればですが。風船のゲームだって、罰がないから何度でも膨らませられる。自己責任の弊害と格差の種はあちこちに埋められている。

■そもそも、現代の若者たちは「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観に強く支配されており、try & errorを避ける傾向にあるとのこと。一度の失敗が致命傷になる世界ならなおさらだ。このへんは『ポストモラトリアム時代の若者たち (社会的排除を超えて)』に書かれたことと共通する(しかし、この本が出たのも10年前ですか)。

hyouryu.hatenablog.jp

■番組ゲストの大学教授によれば、思春期とは「子供というケアされる側から、大人というケアする側へと移行する時期」なんだそうだ。個体差はあるが思春期の終わりは30歳くらいまで。それくらいまではまわりに迷惑かけつつでも無事に生きていける社会が必要ということでしょう。

■30歳だと結婚や出産は、いわば「思春期の途中」に組み込まれていることになる。そもそもが後先かえりみずやらないと、なかなかできないものなのかもしれないね。失敗してもある意味当たり前。それでも「ケアされる」環境がないと、自然と晩婚化するし、理性が勝れば子供を持たない選択もしますわな。