漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

河は海へ

白土三平死去。『カムイ伝』完結はとうにあきらめていたけれど、本当に不可能になってしまった。まあ、しかたない。第一部の巻末にはこうある。

いまやっと「カムイ伝」三部作のうち、第一部が終わったところだ。
しかし物語の真のテーマは、いまだ現れていない。なんと不可解なことであろう。

■そんなことを言われたって困る。作者がなにを言っているのかと思うけれど、これが本音なんだろう。ある日、編集者が原稿を取りに行くと白土三平が部屋で呆然としている。「どうしたんですか」と声をかけるとポツリと「カムイが死んじゃった…」と答えた。まだ連載が始まって間もないころだ。物語を進めたら、どうやってもカムイが死刑になるしかなかったらしい。しかし、こんな序盤に主人公に死なれてはまずい。それで、急遽カムイには双子の兄がいるということにした。その後は兄カムイが主人公として活躍するという苦肉の策で乗り切った。そういう人だから、8年にわたる連載を終えて、いまだ物語のテーマがわからんと首をひねるのもしかたない。第二部は17年後に再開するも途中で連載終了。第三部が描かれることはなかった。

■『カムイ伝』は大きな河だ。大河作品という意味でもあり、河そのものでもある。登場人物はその流れに翻弄され流されるのみ。作者自身すら巻き込んで流れる河だ。ゴールデンコミックス版の『カムイ伝』最終巻は「滄海の巻」という。最終章は「海原」。河は海へとそそぎ、人はみな散り散りになった。もう、つどうことはない。