漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

不登校に関する調査研究協力者会議その4

■今回は資料の中で横浜市教育委員会が出した「不登校対策の現状と課題」というパワーポイントファイルを見てみる。多分ここにあるものは、小中学校の現場で行われている不登校対応のモデルケースだ。
https://www.mext.go.jp/content/20211006-mxt_jidou02-000018318-5.pdf

横浜市の人口は377万人と札幌の1.9倍超。令和2年度の統計では横浜市不登校は5687人、札幌市の3475人に比べて1.6倍程度になっている。資料の分析では、中一生の不登校が増えていると赤文字で書いてあるが、これは何年も前からわかっている全国的な傾向であり、取り立ててここを強調する意図はわからなかった。そして、不登校の背景要因は複数が絡み合っていて、満たされていない様々な児童生徒のニーズの表出が不登校である、と分析し、対策として1、より専門的なアセスメントに基づく支援(専門性に基づくチーム体制)2、児童生徒の様々なニーズを満たす学校環境の整備(学校風土づくり)が挙げられている。

■状況概観した上で、ある中学校の取り組みを挙げている。その中学校では不登校が増加していたが、教員は対応に手が回らず疲弊し、三年で異動を希望する職員が増え、生徒も暴れるようになっていたという。そこで、校長が「一人の生徒を全教職員で育てる」ことを目標にして「職員の美しい心が寄り添う中でA中学校の文化を生み育てる」をスローガンに不登校対策を始めた。

■校長が最初に取り組んだことは、SC,SSWを活用した不登校生徒のアセスメントと「会話と調和により誰もが働きやすく居心地のよい職場づくり」「魅力ある職場の雰囲気は生徒にも支えあいを伝えられる」ということを職員に広めることだった。その後、不登校の可能性がある生徒も含めたリストを共有してモニタリングと専門職による再アセスメント(福祉の事業所とそっくりのやり方だ)・特別支援教室の環境整備・特別支援教室運営に全ての教員が関わり、誰もがすぐサポートに入れる共有方法の構築を行った。こうして「不登校見える化」が行われ、リストで経過や課題、支援方針の確認・「予備軍の把握」(ママ)・定期的点検を可能にした。そして、掲示板に不登校生徒の名前を職員室で一番目立つ場所へ掲示し、個別の日誌に生徒自ら一日の計画と帰宅時間を決めて書かせて支援をする。それは不登校児童生徒支援員(会計年度任用職員)がサポートし、不登校生徒の担当教員が生徒自身に会ったり、教員同士で話しやすくするようにした。

■これにより起こった変化として、・すべての教員が不登校に関わるようになり、子どもを見守る眼が育った。あらゆる場面で教員が生徒の変化をキャッチし、当該学年に伝えられるようになった。・情報共有が日常的になり、学年間の垣根が低くなることで職員室の雰囲気が大きく変わった・校長や専任が声をかけなくても学年を超えたフォローが入るようになった、ことを報告している。そして生徒の変化として・特別支援教室卒業生が「私はA中学校特別支援教室の出身です!」と胸を張って宣言したこと・小学校で完全不登校だった生徒が特別支援教室に登校。卒業式にどうしたら参加できるかを学校全体で考え、2分半の参加の形を整えたところ、本児は卒業証書を壇上で受け取ることができた。という話を成果として挙げている。結局この中学校では、不登校生徒数が4年間で35人→18人と半減し、横浜の特別支援教室活用モデルになったという。1、専門性に基づくチーム体制の構築2、学校のマネジメント機能の強化3、教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備、の三点でチームとしての学校を作り上げたのが、よかったということのようだ。

■この報告は「教職員、心理・福祉等の専門家等の関係者間での情報の共有」を学校が実施し、教育機会確保法で決められた「全児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保」を実践したというレポートであり、ここから全国の関係者が受け取るメッセージは、1、不登校生徒は少なくするべきもの2、教員全体が上手く動けば不登校は減る3、専門家に関わってもらい不登校生徒を見えるようにする、という三点だろう。なるほど、大人の動き方はわかった。で、大人は子供をどう育てようとしているのか、ということになると、不登校特別支援教育の対象というラインが透けて見える。また、学習機会を与えてやれることを増やすことが主軸になっているのであり、休むことを積極的に支持することは無い。ここはとても違和感があるところで、休みをどう充実させるかが最初に彼らが分析した時にわかっている、満たされていない様々なニーズを満たすために必要な時間と空間を保障することにつながると考えることは無いようだ。結局のところ、子供にとっては新しい対応などではなく学校復帰は既定路線化しており、学校としては専門家の関りが有効であろう特別支援教育の対象者に生徒を絞り込むことで不登校の数を減らすということで、成果が上がるということなのではないか。(火曜日)

不登校に関する調査研究協力者会議その1 - 漂流日誌
不登校に関する調査研究協力者会議その2 - 漂流日誌
不登校に関する調査研究協力者会議その3、と - 漂流日誌