漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

不登校カフェ、冒頭挨拶の原稿

■挨拶に用意した原稿が、スマホが固まって見られなかったので、ここで供養。どこぞの首相を真似て横着してはいけませんな、ちゃんと覚えないと。

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不登校の児童生徒数は5年連続で増加していまして、2017年度は全国で14万人。北海道は5,361人、札幌市は2,352人でいずれも過去最高です。今月末に2018年度の速報値が出るはずですが、おそらく増えているだろうと予想します。

■2016年に教育機会確保法という法律ができました。不登校のため学校で勉強する機会を逸した児童生徒に対し、それぞれにあった学習環境を保障しようという法律です。学校復帰の前提が崩れ、「無理に学校へ行かなくてもいい」「学校以外で学んでもかまわない」という認識が広まったため、不登校が増えたと説明する人もいます。不登校は子供と家庭の「選択」の結果という解釈です。

■たまたま1980年代の本を読んでいまして、1986年に男女雇用機会均等法ができます。教育機会確保法と雇用機会均等法、ちょっと似ていますね。正式名称がひどく長いのも共通しているんですけど、雇用における男女の均等な機会および待遇の確保を目的とした法律です。その後、女性向けの転職雑誌がたくさん創刊されます。「職業選択の自由」って歌うCMソングがあったのを覚えていますか。「Salida」という女性向け転職情報誌のCMなんですが、男女雇用機会均等法により女性にもいろいろなキャリア選択の道が開かれた、はずでした。でも、実際はどうでしょう。

salida CM 憲法第22条の歌 職業選択の自由

■2018年の「ジェンダーギャップ指数」で日本は149か国中、110位です。賃金格差、管理職への登用、どれも低い。女性の妊娠、出産を機に65%の助成が仕事を辞めます。育児休暇取得率は女性82.2%に対し男性6.16%。東京医科大学では女性受験者の点数を一律にカットしていました。そもそも「選択」の入り口からハンデを背負わされています。

不登校もこれとおなじことになるんじゃないかと危惧しています。「選んでいる」人はいるでしょう。「選べる」家庭もあると思います。でも、多くは選んで不登校になったわけじゃないし、選べといわれたって、そもそも選択肢自体ないんじゃないでしょうか。「選択」と聞くと一瞬自由な気がしてしまうのですが、社会制度の不備を問わない「選択」は、元からある差を強固にし、子供や女性といった弱い部分へしわよせがいきます。なにか起これば「自己責任」。『不登校、選んだわけじゃないんだぜ!』という本がありましたが、いいタイトルでした。いまさらですが。ぼくも不用意に「選択」という言葉をつかっていた時期がありました。反省しきりです。

■つい聞こえのいい話に引っ張られてしまうのですが、実態は、それぞれの事情を持ち寄ってごちゃごちゃ話すところからしかわからないのかなと思います。「選択」のストーリーに回収されることなく、といって学校復帰に走るのでもなく、いま子供は、自分はどういう状況にあってなにを思うのかに目を凝らす。そういうことって、ひとりで考えていても見えないんですよね。他人に話してみて他人の話を聞いて、気づくことというのはある。相談会だったのをカフェ形式にしたのは2013年からなんですが、そういう思いがあったからです。

今日は限られた時間ではありますが、いろいろ話して聞いて過ごしていただけたらと思います。会場にはフリースクールのスタッフや、親の会の方もいますので、知りたいことなどあればなんでも聞いてください。

■ちなみに「Salida」のCMソングはシーナ&ザ・ロケッツが歌ってるんですけど、歌詞には続きがあります。

愛しているなら逆らわないで
見えない鎖で止めないで
愛しているなら 抱きしめて
黙って見つめて 抱きしめて

っていうんですよね。「黙って見ている」って不登校の子供に対し方でも聞くんですけど、難しいです。ついなにか言いたくなる。そういう愚痴っぽいものもどんどん話してくださって結構です。少々長く、あと真面目になってしまいましたが、以上で挨拶を終わります。