漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

ひとのま その2

■さすが酒どころの富山、スーパーにたくさん日本酒がある。木村くんと「苗加屋(のうかや)」という酒を選んでひとのまに戻った。戻ると、さっきよりも人が増えていた。寝るために来た人がテレビ横の狭い空間に置いてある布団にくるまっている。DSで遊んでいた小学生のお母さんが弟と共に迎えに来ている。その弟はとても元気に回りの人にぶつかったりしながら、部屋の中を動き回っている。目立つのでよく見ると、漂着教室を貸している月曜日のプレーパークに来ている子の一人と、顔も行動もそっくりだ。思わず、わははと笑ってしまった。早速その旨をプレーパークの人に報告しつつ、道中買ったホタルイカの干物をライターで炙って食べながら、酒を飲み出した。周りの人からは、いい酒を選びましたねと言われた。

■飲みながら、宮田さんとこんな人が利用していたという話になる。泊まり込みが可能なひとのまならではのエピソードに出てくる人は、漂流教室でもそういう人はいるな、と思うことがちょくちょくある。若者の一人に宮田さんが声をかけて、話してみたらと振ってくれた。故郷を離れて進学したこと、大学を出てからの就職の事、それが上手く行かなかった理由、そこからの毎日とひとのまに繋がってきたこと、それほど悩んでいる風ではなく、結構重いストーリーを彼は語ってくれた。地域は違っても若者が悩むストーリーに共通点は多い。全国どこでも悩みの質が同じということは、個人の資質によって悩みが決まるわけではなく、そういう社会を我々大人が作り上げているということだろう。

■飲みながら夜も更けて周りを見ると、いつのまにやら大人ばかりになっている。そして、自分がその中でも年長になっている。そうだよなあ、2002年からだもんな、元号も変わったしなあ、などと酔いながら同世代の人と昔の話をしたり、ベースがあるのでいじったり、なんだ漂着宴会とやっていることは変わらないではないか。ひとのまではこれが週に一回あるというからエネルギーは大きい。自分も眠くなってきて寝ることにした部屋は、つい先日まで泊まり込んでいた人が片づけていった部屋だという。ヘビースモーカーだったと見えて、ベッドや毛布にタバコの匂いがきつくまとわりついている。去年から禁煙している身にはなかなかきつい。いつも通りCPAPを着けて、解説してもらったカエルの鳴き声を聞きながら寝た。

■翌朝は七時前くらいに起きたものの、タバコ臭いベッドでだらだらしていた。お腹が空いてきたので起き上がり、ご飯を買いにコンビニを探しつつ付近を散歩した。すると夜は気づかなかったが、すぐそばに随分立派な寺があるのを見つけた。瑞龍寺というそうで、ネットで調べたら国宝とわかり俄然観光気分になった。ひとのまに戻り、おにぎりむしゃむしゃして出かけた。朝九時にもう近隣の中学校から見学が来ていた。それを案内するのは町の有志がやるこの寺や高岡市の史跡について解説をしてくれるボランティアのようだ。こういう歴史的な建物を見るのは好きだ。たくさんの中学生の脇を通り過ぎながら伽藍を見て回っていると、ひとのまにいる木村くんから宮田さんが来たよとメッセージが入ったので戻った。宮田さんはこれから高校に行って、相談を受けた人と学校の間を取り持って話をしに行くという。そりゃスクールソーシャルワーカーじゃないですか、SSWはいないんですか、と聞くと、いるのだと言う。どうもうまく機能していないらしい。ああ、いずこも同じだなあと思いつつ、そこに金がつかないことに嘆きを入れる。ひとしきり話してのんびりした後、金沢に向けて出発することにした。それじゃまた会いましょう今後ともよろしく、と挨拶してひとのまを後にする。走り出すと、何となく気持ちが軽くうきうきして、目につく看板や街並みが可笑しくてけらけら笑っていた。多分、とても似たようなことをしている仲間が集まる場所にいたからだな、と今振り返って思う。(月曜日)