漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

子供に会わせろ

■肩が痛いの腰が痛いの、しけた話ばっかりだなとあきれていたら、自分の身にもふりかかってきました。前歯が抜けた。はるか昔に脱臼した歯がしっかりはまっておらず、できたすきまに歯周菌が入り込み静かに歯茎を弱らせていたのでした。歯茎の支えを失った前歯が下がってきて異変に気づいた。すでに一本、折れて差し歯になっていたので、これで上の前歯二本が人工物です。インプラントを勧められたので値段を聞いてみたところ、一本40万円とのこと。なんで口の中に中古車二台置かなきゃいけないんだとお断りしましたが、それくらい重要な器官ってことなんだよね。みなさんも歯を大切に。

■ボランティアスタッフの西さんが教育に興味のある学生数名を連れて見学にやって来た。漂流教室の活動説明をする。あまりのゆるさに西さんが心配して、ほとんど仕切ってくれて楽だった。このあとは就労移行支援をしているLITALICOワークスへ見学に行くそうだ。そっちには山田も同行するようなので、明日にでも詳しい報告があるだろう。

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■担任が子供に会わせろと家に来る。子供が会いたくないと言っていると断っても、文科省からの通知で保護者には会わせる義務があると聞かない。数人の先生で囲んで迫る。どのような通知か見せてくれと頼むと、見せることはかなわないと言う。そんな話を全道のつどいで聞いた。さて、そのような通知は出ていたか。教師がこばんでも(こばむ道理はないのだが)、通知、通達のたぐいは文科省のサイトに載っている。不登校については昨年9月のものが最新だ。

5.家庭訪問を通じた児童生徒への積極的支援や家庭への適切な働き掛け
学校は,プライバシーに配慮しつつ,定期的に家庭訪問を実施して,児童生徒の理解に努める必要があること。また,家庭訪問を行う際は,常にその意図・目的,方法及び成果を検証し適切な家庭訪問を行う必要があること。
なお,家庭訪問や電話連絡を繰り返しても児童生徒の安否が確認できない等の場合は,直ちに市町村又は児童相談所への通告を行うほか,警察等に情報提供を行うなど,適切な対処が必要であること。

通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」のなかの「2 学校等の取組の充実」(2)の5に書かれていることが近い。2006年、札幌で、8年に渡り母親に監禁されていた女性が見つかる事件があった(報道されたのは2008年)。それを機に、長期にわたり接触のない不登校児童生徒の安否確認が学校に求められるようになった。この「働き掛け」もその流れを汲んでいるのだろう。

■では、なんのために「働き掛け」を行うのか。同通知の「1 不登校児童生徒への支援の基本的な考え方」(4)にこうある。

(4)家庭への支援
家庭教育は全ての教育の出発点であり,不登校児童生徒の保護者の個々の状況に応じた働き掛けを行うことが重要であること。また,不登校の要因・背景によっては,福祉や医療機関等と連携し,家庭の状況を正確に把握した上で適切な支援や働き掛けを行う必要があるため,家庭と学校,関係機関の連携を図ることが不可欠であること。その際,保護者と課題意識を共有して一緒に取り組むという信頼関係をつくることや,訪問型支援による保護者への支援等,保護者が気軽に相談できる体制を整えることが重要であること。

個々の家庭への「働き掛け」は「家庭への支援」のため行われる。「家庭教育」は第一次安倍内閣での教育基本法改正で新たに盛り込まれた。この「支援」がくせもので、最近、「支援」は「管理」のにおいを帯びている。個人の生活を豊かにするためのものが「支援」だったはずが、「専門的なかかわり」の名のもと、さまざまな「支援機関」へスムーズに振り分け移行させることを「支援」と呼ぶようになっている。子供が学校に来ない。学校復帰を促すのか、フリースクールを勧めるのか。それとも医療か。もしや児童相談所か。「適切な働き掛け」をするためには状況を把握せねばならない。だから会いに行く。会えなければ、会わせろと要求する。そんなところじゃないかと想像するが、同じ通知に書かれた「その際,保護者と課題意識を共有して一緒に取り組むという信頼関係をつくることや,訪問型支援による保護者への支援等,保護者が気軽に相談できる体制を整えることが重要である」の部分がすっぽり抜け落ちている。

■「教育は福祉」「それぞれにあった支援を」とこの日誌でも何度か書いた。それがいつの間にか換骨奪胎されて別の意味を持つ。だから言葉をスローガンのように使ってはいけないのだと深く反省する。