漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

問題状況

■今年の9月から不登校は「問題行動」ではなくなったらしい。文科省が各教育委員会へ宛てそう通知を出した。

不登校とは,多様な要因・背景により,結果として不登校状態になっているということであり,その行為を「問題行動」と判断してはならない。不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭し,学校・家庭・社会が不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢を持つことが,児童生徒の自己肯定感を高めるためにも重要であり,周囲の大人との信頼関係を構築していく過程が社会性や人間性の伸長につながり,結果として児童生徒の社会的自立につながることが期待される
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1375981.htm

一方で、「児童生徒によっては,不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で,学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること」とも書かれているので、問題がないと思っているわけでもないらしい。「問題行動」ではないが「問題状況」ではある、といったところか。で、それは吉なのか凶なのか。

不登校という「問題状況」は誰にとっての問題か。「進路選択の不利益」「社会的自立へのリスク」という言葉からは、不登校の児童生徒にとって問題だと読める。なので、「支援」をしましょうというのが今回の通知の目玉で、これまで使われていた「対策」という言葉は消えた。具体的には、

  • 校長のリーダーシップの下、教員以外にも様々な専門スタッフと連携協力し、組織的な支援体制を整えること
  • 予兆への対応を含めた初期段階からの組織的・計画的な支援
  • アセスメントと支援計画の作成、共有による組織的・計画的な支援
  • スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの連携協力
  • 家庭訪問を通じた児童生徒への積極的支援や家庭への適切な働き掛け
  • 登校した不登校の児童生徒を温かい雰囲気で迎え入れられるよう配慮と、徐々に学校生活への適応を図っていけるような指導上の工夫
  • 児童生徒の立場に立った柔軟な学級替えや転校等の対応

とのことで、学校が中心となって登校をうながそうというスタイルは変わっていない。これがなんだかおかしいのは、不登校に将来のリスクがあるとして、それを避けるためにはそのような社会を変えるという選択もある。それが、個人を導き、がんばらせるという方策しか打ち出してないからで、問題状況の打破は個人の努力しかないのか。それを「支援」と呼んでいいのか。

不登校が「結果として」の「状態」であり、「『問題行動』と判断してはならない」と言い切ったのは変化だった。しかし、リスクをちらつかせ、社会は変わらないからお前ががんばれ、そのための助力はしようというのじゃ、脅しているのとそう変わりないのじゃないか。いっそ「問題行動」のまま、お前が悪いと言ってくれた方が、ふざけんなこのヤロウと言い返せてよかったかもしれない。

不登校をどうにかしたくて「将来のリスク」を持ち出すから脅しになるので、「将来のリスク」をどうにかしようとしてくれれば、結果的に不登校が「問題状況」である事態はやわらぐでしょう。それに、生き残りレースが基本の世の中である以上、学校へ通っている子にだって「将来のリスク」はあるので、教育でそれをどうにかしようと考えるなら、とりあえずは高等教育も含む完全無償化なんじゃないのかな。