漂流日誌

札幌のNPO「訪問と居場所 漂流教室」のブログです。活動内容や教育関連の情報、スタッフの日常などを書いています。2002年より毎日更新

感傷的にもなり批判的にもなり

■大変おいしい豚汁を作り、休みなので返信がすぐこないのをこれ幸いとちょこちょこ書類を飛ばし、夕方トイレ掃除して、スタッフ送迎。

■そんな中、気になるニュースが三つ。一つ目は札幌の中学二年生の自殺。亡くなった人の思いは知るべくもないが、死を選択するまでの苦しみは大変だったのだろうと想像している。そして、周囲の人がそれぞれに、その人の苦しみに気づけなかった自分を責めるのだろうと想像する。心が痛むことだ。そして、教育委員会、特に指導室はこれからばたばたするのだろう。自分に一番関わるところはここなのだが、フリースクールのことも忘れずに仕事を進めてほしい。

■二つ目は、韓国軍と北朝鮮軍の衝突。北朝鮮が紛争状態にまで拡大させることは、緩やかな戦争状態の継続を始めるに等しいから、経済状況が苦しい以上まず無いと思う。しかし、今回だけでも、生活を暴力によって脅かされた人々が隣国にいる。まるで、2001年の同時多発テロの時のような煙に包まれている住宅地の映像の中に、またも苦しむ人々が生まれている。それを思うとまた辛い。

■上の二つは感傷的な部分が多分にある。最後の一つは、今日東京で行われていた「カタリバ大学」というイベントで、鈴木寛文部科学副大臣が語っていたことだ。Ustreamでの配信の2時間15分あたりからの発言。

鈴木「今フリースクールのお話でましたけれども、フリースクールに対する支援、もう始めているんですね。子ども手当ですよ。正に15歳でフリースクール…(発言、他の出席者の横槍で止まる)そのことを我々はもっと伝えなければいけなかったし、もっと議論をしたかったなというのは反省ですけど、それを今日お越しの皆さんとは共有していきたい」

これは、その前の鳩山由紀夫前首相の「フリースクールに寄付を認めるのは難しいという話もあるが、そのような小さい芽を育てるような制度を作るようにしてほしい」という発言を受けてのものと思う。

■自分はこの発言に、とてつもない反発を覚えた。まず、フリースクールの運営の実態からだ。鈴木副大臣には、フリースクールは既に健全に経営できているはず、という認識があるのではないか。そんなことはない。フリースクール全国ネットワークで作成されたフリースクール白書では、全国のフリースクールの平均月謝は三万円台だ。漂流教室も加盟している北海道フリースクール等ネットワークでは、つい先日札幌市に対して、「不登校の子どもたちの育ち・学びを支え、最善の環境を整備する政策を実現するための提言書」という政策提言を行った。詳しくは、ここを見てほしい。これはフリースクールが果たしている子どもの権利を守る役割を永続的に行うための提言だが、ポイントは認定フリースクール制度を確立して、安定した経営と新規に事業を起こすことができる環境を作ることだ。こんなことをフリースクール側から言わなければならない状況がある。注目すべきは、この提言に子供をフリースクールに通わせる保護者も主体的に関わっているということだ。それは、現状フリースクールを利用することが如何に家計を圧迫しているかの証左に他ならない。

■加えて、貧困との関連性だ。例えば、
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむからの報告
がある。ここでも、次のような一節がある。

子どもたちの教育も問題が大きい。小学校と中学校の義務教育の間は低所得世帯向けの就学援助費が支給されるが、高校からの子どもに対する教育などの支援が薄い。日本はだんだん教育の平等原則がくずれ、裕福な家の子どもたちがよりよい教育を受ける傾向になりつつある。また母子家庭の母親が長時間働かざるをえない状況で、子どもたちと過ごす時間も少ししかない。塾などの費用を払えない母子家庭の子どもたちは高校受験でも不利だ。高校中退、不登校になる子どもも多い。そうした若者たちはその後の職業の幅も限られており、貧困に陥りやすい。奨学金を利用して大学進学したとしても卒業後に多額の借金を抱えている若者がいる。

漂流教室では、以前からこうした事例に接してきている。また、北海道の委託を受けて始めた、余市生活保護世帯の中学生に対する学習支援の中では、郡部では更に貧困の再生産に繋がりやすい厳しい状況があることを感じている。そんな中で、月々一万三千円の子ども手当があるからフリースクールに通うという選択肢を選ぶ人がどれだけ増えるというのか。ワーキングプアの世帯ならば、更に受けられる支援の選択肢は更に少ない。

■自分は「新しい公共」という概念が結構気に入ってるし、市民活動スペースアウ・クルはその実践の一つとしても行っているつもりだ。先ごろ発寒で行われた、鈴木副大臣も出席した集会にも出た。しかし、この発言を見ると、副大臣にはもっと現状を見てほしい。自分の理想に適合した現場だけを見ているのではないか。さて、他の方、特にフリースクール関係者はこれをどう思うか。是非知りたい。

■夜、酒を飲みながら書いたので、反発する部分がちょいあやふや。もう少しまとめてみる。児童手当を廃して創設した子ども手当には、当然世帯に対する貧困対策という側面がある。それをフリースクールへの対応であると言うのはおかしい。しかも、これをもって、フリースクールの運営に対する支援策とするという。北海道フリースクール等ネットワークだけでなく、各地のフリースクールと行政の間でもフリースクールへの財政的支援について試行錯誤が行われているというのに、それを一顧だにせず「子ども手当フリースクールへの支援である」というのか。これが様々な意見を出し当事者同士で考えていく「新しい公共」の姿であるというのは、おかしい。(24日昼追記)