■実践交流会第三分科会は「発達障害のひきこもり支援」をテーマとして、札幌こころのセンターの中野育子氏とYMCAの加納昌枝氏の発表、来札できなかった名古屋オレンジの会の紹介DVDを鑑賞した。
■北大の間宮正幸教授が最初の挨拶で話したのは、01年にひきこもり支援について話し合いを持った時には、「手の着けようがない」という感想を抱いてしまう状況だったのが、今は語り合える状況になっているということだった。漂流教室も02年から活動を始めたわけだが、確かにその頃よりも語ることのできる材料も相手も増えていると思う。
■こころのセンターの中野氏からは、ひきこもり支援を考える際に広汎性発達障害(PDD)への対応という視点は欠かせないという発表があった。これは、平成16年に行った、こころのセンターへひきこもりを主訴として相談に来る人の内、本人と会い診断をした中の7割が広汎性発達障害であったという調査結果をきっかけに、更に研究した上での結論とのこと。
■また、こころのセンターへ相談に来る人たちの最近の傾向についての話しがあった。何点かピックアップすると、
- 来所して診断した人の内、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された人の男女比が、通常考えられる男女比(大体4:1)ではなく1.8〜1.2:1になっている
- 以前と比べて、ASDではないかと自分で疑い、主訴として診断を希望する人が7割にもなっている
- 無職の人、就労している人だけでなく、主婦、学生も来所する例がある。二項目で30パーセント近い。
といった話しがあった。最初の話しは、母親が自分の子供を見ている時に自分のことに気づき、診断を希望する例が多々あるからではないか、と分析していた。それは二番目、三番目ともリンクしているだろう。
■漂流教室に話しを引きつければ、以上二点は・訪問の対応を考える際にPDD、ASDへの対応がヒントになることは沢山あること・相談のあった子供だけでなく、保護者の対応も今後の課題として出てくる、ということになる。前者はこれまでにもやっていたが、後者については手が着いていないところだ。
■ついで、YMCAの加納氏の発表では、一人の学生がYMCAで学ぶ中で自分の障害についての告知を受け、手帳を取得し就労に繋げていく姿を語ってもらえた。YMCAではOB・OGの会があり、そこで卒業後も人間関係を続けていくことができる。今回の発表の場合も、そこへ卒業後に本人が来ることで就労が進むことにもなっていた。
■最後のまとめとして、間宮教授が話していたことの一つに、韓国やイギリスとの比較があった。その二カ国で既に存在しているひきこもり支援の行政部局がやっていることを、日本では民間の支援機関が行っているのかもしれないとのこと。であるならば、日本の場合、統合する視点を持った機関が存在しないことが弱点にも強みにもなりうる。個々の支援機関が自律的に他機関と連携を図るという点で多様性が生まれやすいのは強みだ。しかし、生涯や広域に渡る支援やそれぞれの機関の対応の質という点では弱点になりうる。これからの施策で、強みを生かし弱点を克服できるか。そして、自分たちはどれだけ自律的に連携できるか。
■「発達障害」という視点は、支援者にとって大きな戦略が立てやすくなる視点だという話しも間宮教授からあった。これはひいては、当事者の毎日にとっても、また施策を考える上でも同じように大きな戦略となる視点だ。その場合、視点を共有する人が多ければ多いほど、活動はしやすくなる。となると、もう一つ自分たちにやれることは、啓蒙活動ということになる。さて、来年度はどうするか。